第267話 ドシン、ドシンと何かが……
文字数 1,667文字
何かがいる。
やっぱりいる!
前方から、ときおり思いだしたように床や壁をゆらす振動がある。
なんかさ。すっごく大きな生物が壁にぶつかってあばれてる感じ?
そう言えば……究極の改造が完成したとか言ってなかったっけ? まさか……?
いやな予感はするんだけど、そっちに行くしかないんだな。廊下は音のするほうに続いてる。
腹の底に響くズシン、ズシンという音を骨で聞きながら進む。
広い廊下に出た。
つきあたりに大きな両扉がある。音がするの、あそこなんだけどな。でも、ほかに道がない……。
「じゃ、じゃあ、腹をくくって行こうか。ね? 猛、シャケ」
「ああ」
「行ったるでぇー」
「ミー」
「あっ、ごめん。ミニコもいっしょに行こうね」
「ミ〜」
メンバー四人しかいないけど、数値は高めだ。僕は念のため、急いで山びこに転職した。これならミニコとの魔法エンドレスアタックができる。
さあ、来るなら来い。たとえ、ゴドバ本人がいたとしても、絶対に負けないぞ。
意を決して扉をひらく。
そこには、いったい何があるんだ?
扉のなかは広間だ。古城なのに、明々と電気の照明がついてる。明々と言ったけど、厳密には部屋のすみずみまで照らしてるわけじゃない。とにかく、めちゃくちゃ広い部屋なんで、光があたってるのは半分ほど。
暗いほうの半分には何があるのか、よくわからない。闇のなかにとけこんでる。
照明のあたってるほうの半分に、ビックリするようなものがあった。見あげるほど大きな鳥かごだ。そして、そのなかにフェニックスがとじこめられている。
ふえ子のお母さんだ!
「猛! フェニックスだ!」
「ああ。でも、元気がないぞ」
そうなんだよ。ふえ子のお母さんは鳥かごの床によこたわり、グッタリしてる。起きあがる力がないんだ。
しかも、鳥かごの骨組みが血を吸うように脈動しながら、ぼんやり光ってる。その光は鳥かごのてっぺんから伸びたケーブルを伝って、壁にはめこまれた機械のなかへと消えていく。
「力を吸われてるんだ!」
「たぶん、そうだな」
「あの機械をこわさないと!」
僕らは機械の前に立った。
破壊しようと剣をぬく。すると、チャララララ……と、いつもの戦闘音楽が。
「ええー! 壁なんだけど?」
「壁なんだけどな」
チャララララ……。
魔改造の壁が現れた!
魔改造の壁は防御モードになった。
ううっ。壁と戦わないといけないのか。
しょうがない。やるか。
「えっと、ぽよちゃんがいないから、猛! 聞き耳!」
「キュイ!」
「……いや、ぽよちゃんのマネしなくていいから。しても可愛くないからね」
「ははは」
なんだろう。この、戦闘中なのに、僕らの会話集みたいな、まったり感。
えっと、とにかく、聞き耳によると、魔改造の壁はレベル1。まあ、そうだよね。壁がレベル高いはずないからね。
HPは……っと、七万か。
「力はゼロで、体力が千。特技は身を守る。連続かたくなれ〜、たまにヘッチャラさ〜だって。かたくなれはともかく、ヘッチャラさは無敵になれる技だよ。使われると3ターンだったかな。こっちの攻撃が通用しなくなるんだけど」
「HPが高いだけだ。やってしまおう」
「じゃあ、僕、体力とHP、つまみ食いしちゃおっかなぁ」
なぜか、猛は考えこんだ。
「いや。なんかさ。イヤな予感がするんだよな。ちょっとのあいだ、つまみ食いはやめたほうがいいかもな」
「ふうん?」
さっきもそんなこと言ってたけど、どうしたんだろ? 兄ちゃんの考えてることはわかんないなぁ。
「まあいいや。じゃあ、傭兵呼びが必中になったから、やってみようか?」
「あっ、それも待った。この異空間に傭兵って来るものかな?」
「えっと……」
そう言われると、どうなんだろう? ここって異次元的なとこなんだよね? 転移魔法が使えない場所か。もしかして……。
僕は『小切手を切る』を試してみた。
「小切手を切る〜! 十万!」
すると、どこからか、ブッブーといかにも残念な効果音。
この場所では使えない技です!
ああ、テロップに注意されてしまった。
僕の最大の特技が封じられたー!