第142話 次鋒はクマりん
文字数 1,422文字
アンドーくんは負けちゃったけど、まだまだこれからだ。さきに三勝できればいいんだから、蘭さんたちにもチャンスはある。
次鋒はクマりん。観客席からは小さすぎて見えないけど、たぶん頭の上にコビット族の誰かが乗ってる。
なにしろ、身長五十センチあるかないかのクマのぬいぐるみが、トコトコ歩いてるのだ。それも、めちゃめちゃ少女趣味のバラのドレスを着て。
対するのは三メートルをゆうに超える巨躯のマッスル女戦士。スゴイ。身長差が三メートルある。
パッと見、勝敗はもう決まっていた。どう見ても、一撃で決まると会場の誰もが思った。
「あはは。なんじゃアリャ。あれがボイクド国の推薦枠かい? 弱っちいね」
「さっきの兄ちゃんは、巨人相手にまあまあやってくれたと思うが、あれじゃダメだぁ」
「かわいそうな感じだなぁ。降参しちまえよ」
「ワレス隊長の推薦だって話だが、大したことねぇな。あの隊長も殿堂入りして大会の勘がにぶったんじゃないかね?」
そんなヤジがまわりじゅうでとびかってる。
デギルさんは自分だって、ワレスさんの悪口を言ってるくせに、他人がバカにするのは許せないらしい。歯ぎしりしてる。
ぷくく。可愛いな。
反応がガキそのもの。
「次鋒、位置について。始めッ!」
あっ、次鋒戦が始まる。
クマりんの数値はっと。
レベル46(弓使い)
HP265、MP53、力245(264)、体力245、知力104(114)、素早さ93(100)、器用さ146、幸運123(132)。
職業のツボを使って、弓使いだけは覚えさせたからね。弓使い就労中の補正ボーナスもプラスのものばっかりだし、無職よりいい。
それでも、小さいモンスターなので、数値は全体に低い。
ただね、クマりんの場合はこの状態の数値は、正直どうでもいいんだ。
素早さは100。
さっきの巨人少女が60弱だったから、たぶん大丈夫だろうと思ったけど、やっぱりだ。巨人女戦士は開戦後も動かない。素早さはクマりんのほうが速い。
そこが大事だ。先手がとれるかどうか。クマりんの勝敗はその一点にかかってる。
「かーくん。子グマちゃんだよな? あのクマ。前にいっしょに旅したとき、フィールドに出てきた」
「そうだよ。子グマちゃん」
クマりんは子グマちゃんっていうモンスターの種類だ。特技は仲間呼び。ワラワラと子グマちゃんを呼んで、そのうち合体してテディーキングになる。
「テディーキングになれば、たぶん、あの巨人戦士相手でも数値はそこそこまで行く。それでもステータスで負けるよな。それに子グマが八匹にならないと、テディーキングになれないよな? 行動数がそうとう多くないと、キングになるまで持たないぞ?」と、猛。
ふふふ。猛でさえ、そんなこと言ってる。
「まあね。ふつうに子グマちゃん呼んでたら、キングになるには三、四ターンかかるよね」
ふつうに子グマちゃんを呼んでたらね。ふつうに。
でも、次の瞬間、クマりんは叫んだ。いや、叫ぶって言うには小声だけど。
「ま〜」
ドスン……ドスン……。
地面をゆらして、来た、来たー!
十数メートルはある巨大なクマのぬいぐるみが会場に現れた。
「おいおい。かーくん。デッカいクマ来たぞ?」
「クマりんのパパ呼びだよ」
「子グマちゃんにそんな技あったか?」
「仲間を呼ぶが進化したんだよね」
クマりんはパパの足にひっついて隠れた。可愛い。可愛いけど、凶悪な技だ。
これ、味方じゃなかったら、本気で絶望するからね。