第126話 意外な見物客
文字数 1,704文字
「わあっ、カッコいいお姉さん! やったね。勝ったよ」
「かーくんは平和だなぁ。おれらもあたったら、戦わないといけない相手なんだぞ」
「そうだけど。なんとなく」
すると、僕らの隣席にいた男が急に声をかけてきた。
「うちのブルーベリー、やるだろ?」
ん? どっかで聞いた声。
見ると、このツンツン頭は、たしか——
「えーと、ワレスさんにコンプレックスをいだいてる、ボイクド城の傭兵隊長、デギルさん」
「おまえ、なぐるぞ」
あっ、心の声が……たまにもれるんだよ。
「す、すいません。つい口が正直で」
「どうしても、なぐられたいか?」
猛がすごんで僕らのあいだに割りこむ。
「おれの弟に何か?」
「ああ、猛。いいから、いいから。こう見えて、悪い人じゃないんだよ」
「そうなのか?」
「ちょっと感情が子どもっぽいだけ」
デギルさんはこぶしをにぎりしめてたけど、なぐってはこない。やっぱり、いい人なんだ。
「デギルさんはなんで、こんなとこにいるんですか?」
「見物だよ。武闘大会で名をあげるのは、傭兵のあこがれだろ。部下たちの戦いぶりを見にきてやったんだ」
「へえ。じゃあ、あの朱雀組の赤チームが?」
「ああ。さっきの僧侶はブルーベリー。次の魔法使いはラフランス。中堅はアップルのはずだったんだが、なんか出港にまにあわなかったとかで、今は代役を雇ってるんだ」
出港にって……寝坊したのか?
「ふーん。でも、ボイクド国の推薦枠はトーマスパーティーですよね?」
デギルさんはふてくされた。この感じ、わかったぞ。つまり、ワレスさんの推薦が自分の部下じゃなかったからだよね?
もともと傭兵の隊長だったワレスさんが、自分たちを置いて近衛騎士の隊長になってしまったことを、デギルさんは恨んでる。というより、すねてる。だから、ワレスさんのやることなすことが気に食わないのだ。
「ふん。推薦枠は各国一パーティーだからな。自分の隊の隊員を推したくてもできないんだよ。おれの隊だけじゃない。おまえらが次に対戦するのは、正規隊のボルカミック隊長の推しだ」
「えっ? そうなんだ」
「ボイクド城には近衛隊、傭兵隊が各一隊、正規隊が二隊ある。ボルカミック隊と、もう一隊はサムウェイ隊」
「あっ、サムウェイ隊長も来てるんだ!」
サムウェイ隊長は僕の知ってる人だ。まだこっちの世界では会ってないけど、ワレスさんの話のなかに出てくる。
サムウェイ隊長は規則に厳しいけど、ほんとは部下思いなんだよな。正義感も強い。ワレスさんとも仲は悪くない。
前にワレスさんの部下のクルウから、ボイクド城にも派閥争いがあるから気をつけろって言われたことがある。
サムウェイ隊長と争ってると思えない。デギル隊長も心の底ではワレスさんを尊敬してるっぽい。
ということは、ボルカミック隊長っていうのが争いの火種かも。
「サムウェイ隊長は来てないと思うぞ。今回、直属の部下が参加してないからな」
「ああ、そういう意味じゃないんだけど」
そんな話をしてるうちに、会場では次鋒戦が始まっていた。
「あれっ? あの魔法使い、どっかで見たことある」
「ラフランスは腕のいい大魔法使いなんだけどな。性格というか、体質にちょっと問題があって……」
「体質……」
「人間アレルギーなんだ」
思いだしたー!
ボイクドの王都のギルドで魔法屋の店番をしてるお兄さんだ。いつもと違って、漆黒のローブと漆黒のとんがり帽子。ブーツも黒で、剣かってくらいデカイ杖持ってるから、誰かわからなかった。
「スゴイ。僕が近づいただけでカウンターの下に逃げこむお兄さんが、こんな人ごみのなかで戦ってる!」
「これまでずっと人間に会いたくないからって、参加を断ってたんだよ。だが、今年はやる気になってくれた。ほんとにすごく強いんだぞ」
たしかに、そのとおりだ。
僕らが見てる前で、身長の1.5倍は長い杖をふりまわして、彼は叫んだ。
「雷神の怒りーッ!」
あっ、僕らがこの前、ワレスさんから買ったやつ。ギルドの高級店介してだけど。
あれ、顔文字が『( ゚皿゚)キ─︎─︎ッ!!』なんだよな。
わあっ、白組の次鋒は一瞬で倒れた。
あの人間嫌いのお兄さんが、こんなに強かったなんて。