第239話 精霊王を召喚したら
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蘭さんは声高に呪文を唱える。
「みんな、ありがとうー!」
うまい!
蘭さんが生まれつきに覚えるオリジナルの生来魔法。パーティー全員のHP、MP状態以上を全回復した上、みんな、がんばろ〜、みんな、かたくなれ〜、みんな、巻きで行こう〜がかかる。
「さっき、僕、小説を書くでMPに五千たしたよね。これで雷帝、使いほうだいだ」
ところがだ。職神さまもバカじゃない。ついに数回に一度、『元気いっぱい〜』を出すようになった。
こうなると持久戦だ。どっちがさきにMPがつきるか。
職神さまは特技『職神の知恵』で、MPを使わず攻撃できる。必然的に蘭さんが不利に……。
雷帝は必ず付加効果でマヒがつくんで、職神さまの四回行動の多くは封じられる。だから、攻撃を受けても回復の余地はある。
でも、一撃、または二撃で倒せないのが痛いよね。いい線までは行くんだけど、倒しきれない感じ。
うーん。蘭さん、これだと勝つのは難しいかな?
蘭さん自身もそう思ったんだろう。つかのま立ちつくして熟考したのち、こう叫んだ。
「精霊王召喚!」
ん? 何それ? そんな技、蘭さんあったっけ?
アクセサリーをかかげてるなぁ。
あっ、前に僕が買ってあげた、精霊王シリーズのアクセサリーか! 精霊王のブローチ。そう言えば、なんか召喚できる装備品魔法がついてた!
精霊王召喚か。
精霊たちの祖先になった古代の王様だったっけ?
ドキドキ。どんな精霊が出てくるんだろう? 精霊って、バランみたいなのかな? 蝶の羽が生えてたり? きっと綺麗なんだろうなぁ。
「…………」
「…………」
「…………」
ふわっと一陣の風が舞い、花のようないい香りがあたり一帯にただよう。
金色の炎? いや、七色の後光ともとれるようなオーラが、その人を包んでいる。金色の髪がなびいて、まるで天使だよねぇ。ビューティフル!
……って?
「ええー! なんでェー?」
「なんかさ。かーくん」
「う、うん。そうだよね!」
「おれ、アイツ、見たことあるぞ?」
「だよねぇー!」
すると、くるりとご本人がふりかえる。
「なあ、教えてくれないか? おれは今、城で会議中だったんだが? なんで、こんなところにいるのかな?」
「あのぉ、ロランが精霊王のブローチの装備品魔法使ったら、なんでか、召喚されてきたのが、あなたです」
「召喚? 最強の戦士でも呼びだす魔法か?」
自分が人類最強だって自覚があるんだ!
そう。それは、ワレスさんだ。
精霊王呼びだしたら、ワレスさん出てきたんだけどぉー?
「……それが、精霊王召喚って魔法なんです」
「精霊王? おれが?」
「なんでですかねぇ?」
「おれのほうが聞きたいよ。まあいい。呼ばれたからには、それだけの働きをしないと帰れない」
「じゃあ、お願いします。あちらがこのダンジョンのぬし、職神さまです」
「ひょー。美形じゃのう。美しい女子じゃ」
「……おい。あれを抹殺してもいいか?」
「あっ、いえ。抹殺はしないでください。ふつうに戦闘不能でお願いします」
ワレスさんはあらためて、あたりを見まわした。
「ここ、名人墓場の奥か?」
「そうです!」
「そうか。で、あいつがウワサの最奥の魂か」
「すべての職業をきわめた職神さまでした!」
「いいな。おれもあとで自身として挑戦したい。ドラゴンや聖獣の魂を集めたいんだ」
「わかりました。僕ら、鍵もらったんで、いつでもごいっしょしましょう!」
「じゃあ、とりあえず、倒しとく。また、あとで——雷帝!」
「はぎゃー!」
職神さま、意外と独特な悲鳴だよね。
一瞬で勝負はついた。
さすが、すべての数値がふりきった男。