第124話 本戦前夜

文字数 1,984文字



 それにしても、決勝戦の赤組は卑怯なやつらだったなぁ。
 なんで女の子ばっかり狙うんだ。

「そりゃ、勝ち残るためだよ。だって、かーくんが強いってのは評判になってた。だったら、強いほうをさけて、もう一つのチームを全滅させればいいだろ」
「まあ、そうなんだけどさ」

 僕らは宿に帰って、その日は早めに休んだ。翌日から本戦だし、猫たちを待たせてるからね。ミーミーとエサを求めてくる猫たちの、なんて可愛いことよ。もう猫カフェ気分。

 ところが、夜中だ。
 すきま風を感じて、僕は目がさめた。猛が猫車から降りていくところだった。

 なんだろ? 兄ちゃん。トイレかな?

 そのまま、すぐに寝てしまった。どうせ、じきに戻ってくるだろうと思った。けど、うたた寝しながら待ってても、いっこうに帰ってくる気配がない。早朝、となりを見たときには、もうそこで寝てたものの、あれは夢だったんだろうか?

 前のときは魔物が話してるのを聞いたんだけど……あのとき、影は二つしか見なかった。でも、なんとなく気配は三つあったような?
 まさか、兄ちゃん……?
 ま、まさかね。そんなことあるわけないよ。

 今回の大会には四天王がやっくるかもしれないって言われてるけど、それはゴドバのことだよね?
 それか、この前の影。義のホウレン。
 兄ちゃんは裏切りのユダだから違う……違うはずだ。
 僕と会ったタイミングがなんかアレだけど、たまたまだよね。うん。たまたま。

 僕は自分の考えをふりはらい、目をとじる。
 ああ、不安で寝られるかなぁ……今日は本戦なんだから寝ないと……。

「——くん。かーくん。朝だぞ。起きろよ」
「んあ?」
「もう七時だぞぉ。今日は九時から試合だろ。起きて飯食いに行こう」

 くうっ。兄ちゃんめ。誰のせいで寝不足だと思ってるんだ。

「わかった。今日からは最低でも中堅までは一戦ずつしないといけないんだよね。僕が先鋒のままでいいかな?」
「剣道じゃ、先鋒はそこそこ強いメンバーを入れとくよ。おれとかーくんは、誰とあたっても負けることはまずないとして、あと一人には絶対、勝ってもらわないといけないんだよな」
「相手のチームがどこに強い人を入れてくるかでも変わってくるよね」
「蘭たちにはまだ会えないのかな? 蘭がいれば必ず勝てるだろ?」
「うん。力五万だからね」

 預かりボックスをのぞくけど、やっぱり蘭さんからの手紙は来てない。
 こう連絡こないと心配になってくる。蘭さんにまたなんかあったわけじゃないよね? 蘭さんも青蘭ほどじゃないけど、かなりのさらわれ魔だ。

 と言っても、どうにもしようがないんで、ともかく支度をすませて、大会会場へ行く。

 今日の出場者は予選初日にくらべたら、ずいぶん減ってる。四つの門にふりあてた予選通過パーティーが各二組ずつ。それに推薦枠が各ゲート一組。合計十二パーティーだ。

 今日はまずゲートごとの予選勝ちあがり二組が戦い、予選リーグ優勝チームを決める。
 そのあと、優勝チームと推薦枠チームで総当たり戦となる。試合の進行スピードにもよるだろうけど、総当たり戦は明日からかな。

 つまり、うちは昨日のあの卑怯な兵隊さんチームと第一戦を戦うことになる。
 昨日はけっきょく先鋒同士しか戦わなかったから、あとのメンバーがどんな戦いかたをするのかわからない。でも、それは向こうも同じだ。

「かーくん。白虎組の試合は朱雀組の次みたいだぞ。試合、見ておこう。朱雀のパーティーは偵察してないからさ」
「うん」

 観客席にまぎれこむんだけど、それにしても本戦だからかな。昨日までより観客の数がすごく多い。観客席のあいだを通って、ビールやかき氷、ポップコーンなんかを売り歩く売り子さんまでいる。すごく、にぎわってるなぁ。

「あっ、兄ちゃん。アジ。こっち席あいてるよ」
「兄ちゃん、羽がジャマで最後尾じゃないとすわれないんだよなぁ」
「もう。変な羽生やすからだよ」
「かーくんのせいじゃなかったっけ?」
「えっ? 知らないよ?」
「かーくんの妄想が兄ちゃんを侵食して——」
「はいはい。ここならいいよね」

 やっとうしろが通路になった席を見つけてすわりこむ。

 今日はさすが本戦だ。広い会場を丸々使って一戦ずつ行われてる。

「本日の一戦めです。朱雀組予選を勝ちぬいてきました。二パーティー。赤組、ビーツパーティー。白組、パパンパーティー。先鋒から一対一による対戦です。どちらかのチームがさきに三勝した時点で勝敗が決定します」

 なるほど。つまり、中堅まで負けなしなら、副将や大将は戦う必要ないのか。

 会場のまんなかでむきあう朱雀組の二パーティーを見て、僕は目をみはった。

「兄ちゃん! 三村くんがいる」
「えっ? どこ?」
「ほら、赤組の中堅。フードで顔隠してるけど、あれ、三村くんだ。ね? アジ。そうだよね?」
「うん。シャケ兄ちゃんだ」

 やっぱり、三村くんも来てたんだ。
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