第276話 グレート研究所長の最期
文字数 1,313文字
さあ、なんとかグレート研究所長は倒した。
今度こそ、戦闘勝利の音楽が鳴り響く。
バンシーは? どうなった?
「シャケ! アユちゃんは?」
ふりかえると、バンシーの背中から白い翼が消えてる。肌の色にも血の気がもどって、どこから見ても人間の女の子だ。
「かーくん。二人とも失神してる。蘇生魔法だ」
「そうだね。猛」
それにしても、バンシーの特技、なんで途中で切れたんだろう? バンシーが倒れたら、猛も倒れるんじゃなかったっけ?
猛は僕の心を読んだ。いや、魔法じゃないよ? 超能力でもない。以心伝心ってやつだ。
「切れてなかったぞ。兄ちゃん、格闘王の特技で、ふんばるが30%成功するからな」
「いいな! 格闘王。僕もなりたい!」
「いやいや、かーくんは小説書けるだろ」
「そうだけどぉ」
あっ、わちゃわちゃやってる場合じゃなかった。僕は急いで、蘇生魔法を使う。シャケとアユちゃんが起きてくる。
「アユ! アユ、大丈夫か? ケガしてへんか? 病気は? もう病気はええんか?」
「お……お兄ちゃん?」
再会を喜びあう兄妹。いいね。アジもつれてきてあげるんだったかなぁ。
でも、これでちゃんと二人をつれ帰るっていう約束が果たせる。
「シャケ。病気はグレート研究所長の弟のグレートマッドドクターが毒を飲ませて、体調を悪くしてただけなんだ。毒が切れたときに完治してると思うよ」
「ほんまか? よかった。ほんまによかった」
シャケの目に涙があふれてくる。三村くん、こっちの世界でも涙もろいなぁ。
人間を魔物に変える機械もこわされたし、それを研究してたグレート研究所長もいなくなった。これでもう人間がさらわれることはない。人間が魔物に変えられて、親兄弟を襲うなんていう痛ましい事件は、二度と起こらないんだ。
——って、グレート研究所長、ほんとに死んだんだよね? 戦闘不能になってるだけなら、捕まえとかないとな。スリーピングのときみたいに逃げだしたらヤバイ。
僕はあらためてグレート研究所長を見なおした。そして、ハッとする。
「子ブタが一匹!」
さっきまで、そこには身長三メートルはあるオークが倒れていた。でも、今そこにいるのは、小さな子ブタだ。ミニブタっぽいのが一匹。丸々してて、可愛いじゃないか。
猛が近づいていって、ブタのあちこちをさわってたしかめる。そっと首をふった。
「死んでるよ」
「そっか」
自分を魔改造したせいかもしれない。きっと、それだけ体に負荷がかかったんだな。自分の寿命をちぢめての決死の攻撃だったのか……。
でも、魔改造されたら、もとの姿には戻らないって言ってたのに、グレート研究所長はオークですらなく、魔物化する前の子ブタに戻った。
なぜだろう?
自分が一番幸せだったころの姿に戻りたかったのかな? 死ぬ前に最後に彼が見ていたのは、そのころの風景だったのかもしれない。
「次は食肉用じゃない、ペットのミニブタに生まれてきたらいいね」
「そうだな」
グレート研究所長、グレートマッドドクター、グレート大海賊キャプテン。
悪い魔物だったけど、どっか憎めなかった。
彼らは彼らなりに、真剣にオーク族の未来を考えてたんだろう。
グレート三兄弟よ。安らかに……。