第172話 夢の充電器〜!

文字数 1,446文字



 しばらくして、タツロウは僕らを宮殿のなかへ手招きした。前に案内された、あの部屋へつれられていく。

「姫様を助けてくれて、ほんとにありがとう。どんなにお礼をしてもしきれない。なんなりと望みがあれば言ってほしい。もちろん、国王陛下からも、追って褒美の品をたまわるだろうが、今はおれの気持ちだ」

 タツロウの肩にもたれかかって、セイラ姫はベッタリだ。磁石でひっついてるみたい。

 こんなに好きあってるのに、この二人は結婚できないんだろうか?

 もしも一人娘なら、次に国王になるのはセイラか、その夫だ。どう考えても、あの卑怯な兄貴より、タツロウが次期国王になるほうが、国だって安泰なのに。

 よそものの僕らが口出すことじゃないけどね。
 でも、いくらなんでもお姫様をさらった男になんのお(とが)めもないとは思えない。これをきっかけに何か変わるといいね。

「えーと、僕、お金には困ってないんで、買えるものは必要ないんですよ。なんで、もし予備があればでいいんですが、踊り子のツボが欲しいなぁ」

 ダメ元で言うと、意外にも、あっけなく承諾された。

「そんなものでいいのか? では今、持ってこよう」
「えっ? ほんと?」
「待っていてくれ」

 ニッコリ笑って、タツロウは出ていく。当然のように、セイラもくっついていく。すごいなつきようだ。ご主人の帰りを一日中、窓辺で待つ猫の様相。

 待っているあいだ、するりと部屋に入ってきた人がいる。純金のような髪をなびかせたその姿は、僕の英雄ではないか。

「ああっ、ワレスさんだ!」
「しッ。おれたちが知りあいだとは、まだ知られないように。見かけたから、これだけ渡しておく」

 ポケットから一通の封筒と、USBメモリっぽい形の何かを渡される。

「えーと、これは?」
「ホムラから預かってきた。正規の充電器は開発間近。ただし、研究所内でなければ使えないため、これは簡易携帯用なんだそうだ」
「簡易充電器ッ?」

 や、やったーッ!
 やっと、やっとスマホの充電ができる!

「これ、どうやって使うんですか? そもそも、この世界ってコンセントがないし……」
「それは落雷充電器らしい」
「ら、落雷?」
「そう。戦闘中、雷属性の魔法を受けると、そのときの電力を蓄積していくという話だ」
「えッ?」

 戦闘中、雷を受けると……な、なんて痛そうな充電法だ!

「わ、わかりました。覚悟して使います」

 たとえ痛くても、早く充電はしたい。

 僕は充電器をUSBメモリの接続部分にとりつけた。これでやっとスマホを使えるようになる。蘭さんのバグも直してあげられるし、小説の続きも書けるよ。

「なんなら、おれがプチサンダーしてやろうか?」
「ワレスさんのプチサンダー……」

 い、痛そう! 知力が低い人のほうがありがたいんだけど。

「ミニコのプチサンダー……猛のプチサンダー……ダメだ。誰にやられても死にそう。できれば知力二桁前半までの人がいいんだけど」

 ワレスさんは笑って去っていった。
 もっと話したかったけど、どこにゴドバの目があるかわかんないからな。今は親密にしてると他人に知られるわけにいかない。

 ちょうど入れ違いで、タツロウとセイラが帰ってきた。ツボを一つ手にしている。

「これは以前、訓練用にと、おれが父からもらったものなんだ。でも、詩人をマスターしたら、自然に就労できるようになったので、けっきょく使わなかった」
「僕、基本職のなかで踊り子だけなれなかったんです。ありがたく使わせてもらいます」

 さっきから喜び二連続だ。
 これで踊り子に——勇者になれるぞ!
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