第262話 地中に埋まったもの

文字数 1,343文字



 そこはひじょうに広い空間。最奥にものすごく巨大な壁がある。一枚岩のようだ。

「扉? それとも、あれじたいが魔物かな?」
「古代の遺物なのは、たしかだろうな」

 百メートルはあるんじゃないだろうか。あきらかに人工物らしく見える壁の表面に、角と羽を持つ魔物のような陽刻がほどこされてる。陽刻ってわかるかなぁ? 浮き彫りのことだよ。立体的な彫像が刻まれてるってことだ。

 でも、なんていうか、装飾的な像じゃないんだよなぁ。
 よこ向きだし、すわりこんでるみたいだし、顔があっち向いてる。つまり、壁に埋まってる。

 なんかさ。ものすごいスケールの巨人が、そこにすわりこんだまま岩になったみたい。

「これ、なんなの?」
「さあな」
「羽と角がある。悪魔っぽい。ていうかさ。猛っぽい」
「かーくん。兄ちゃんを悪魔だと思ってるのか? 兄ちゃん、悲しいなぁ」
「僕からタンパク質を奪ってく悪魔だよね?」
「いやいや。兄ちゃんはかーくんがサバイバルでも生き残れるようにだな……」
「そんなの今いいから」
「かーくんから言いだしたくせに」
「だからさ。竜人っぽいよねって言ってんの」
「それは、そうだな。おれは角ないけど」

 それにしてもデッカイなぁ。まさかこれ、ほんとの人間じゃないよね? 人間だったら化け物だ。

 像のまわりに魔法陣みたいなものがあるから、なおさら、何かの力で封じられてる魔物っぽいんだよなぁ。

 僕はとりあえず、スマホでその場の写真を撮った。これをあとでワレスさんたちに見せて相談しないと。

 とは言え、当面の問題はガーゴイルたちだ。これも全部倒していくよ。

「みんな、助けに来たよ!」
「キュイ! キュイ!」
「ゆらり!」

 ここでも戦闘は一瞬で終わる。
 ノームたちを助けて、さあ、ひきかえそうとしたときだ。

 僕はゾッとした。
 岩壁に半分埋まった彫像が、動いてるような気がしたからだ。

「兄ちゃん……」
「うん」
「さっき、顔はこっち向いてなかったよね?」
「ああ、たぶん」

 じゃあ、なんで、今、


 あきらかにふりかえった——のか?

 でも、それ以上、じっと凝視しても、彫像は動かなかった。やっぱり、ただの岩なんだとしか思えない。

「かーくん。早く出よう。なんか、長くいるとヤバイ気がする」
「だよね」

 けど、なんでかなぁ?
 こっちを見たあの像、ちょっとだけど、猛と似てる気がするんだよなぁ。竜の羽があるからってだけじゃなくさ。

 僕らはとにかく、急いでその場を離れた。蘭さんたちと別れた二又まで帰ってくる。

「よかったね。なんとか逃げだせた」
「あれ……なんだったのかな?」
「うーん」

 もちろん、わからない。けど、だいぶマズイものだったとは思う。たぶんだけど、あれは古代の魔物だ。魔王軍はそれを自軍の戦力にするために掘りおこそうとしてたんだ。

「封印されて岩になってたけど、生きてるってことだよね?」
「あの感じだと、そうだよな」
「ちょっと目、あけたよね?」
「あけたな」
「だいぶ封印の力が弱まってるんだろうか?」
「掘りだされたからかもな。魔法陣が完全じゃなくなったんだ」

 アレは絶対に掘りだしたらダメなやつだ。アレが起きたら、世界は大変なことになってしまう。

 アレがなんなのか、今の僕らにはわからないけど……。
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