第42話 ロイヤルなキヨミン

文字数 1,713文字



 目的地はわかった。
 たぶんだけど、ギガゴーレムは盗賊たちがアジトに持ち帰ったんだろう。悪用される前にとりもどさないと。

 僕は蘭さんにたずねた。
「今すぐ、エレキテルに戻って、アジトまで行く?」

 もちろん、今すぐ行きたい。でも、今日は朝から汽車に乗ったり、研究所を攻略したり、けっこう疲れてる。一日にダンジョン二つ挑戦するのは体力的にキツイな。ご飯も食べないと。

「あのぉ、せっかく美形がそろったんだから、もっとイチャイチャしてくださいよ。ちょっとカッコイイ系が少ないけど、そこは我慢するとして、いっしょに晩餐会なんてどうですか?」

 誰だ? 今この場にすごくそぐわない発言したのは?

 見ると、あのおさげの女の子だ。年齢はたぶん十七、八歳。顔立ちは日本人。目をみはるほどの美女とは言わないけど、わりと可愛い。

「どなたですか?」
「そういう、あなたはどなたですか? 青蘭(せいら)さんはこっちの世界にもいるんですね。でも、あなたは知らない人です」

 むっ? 青蘭の名前を知ってる?
 青蘭はもちろん、僕の書いてる小説のキャラクターだ。『宇宙は青蘭の夢をみる』の青蘭。
 でも、これを知ってると言うことは……。
 それに、このおさげ。

「ロイヤルキヨミン!」
「はいです。ロイヤルキヨミンのオーナーシェフですよぉ」
「そっか。清美さんか!」
「ああっ、こっちのわたしはキヨミンです」

 ため息をつきながら、ワレスさんが口をはさむ。
「その女は自分の世界の記憶があるんだ。おれや、おまえのように。ホムラもだろう? ほかにもいるのかもしれないな」

 そうだよね。もとの世界のことを僕らだけおぼえてるってのも変だよね。

 女神さまはけっこうたくさんの人をこっちに呼んだと言ってた。ワレスさんが前に推理したように、特殊な特技を持ってる人間は、みんな召喚されてこの世界へ来たんだと思う。

「じゃあ、ということは、キヨミンさんも戦えるんですか?」
「ああ、わたしは戦いませんよ。それより、晩餐にしましょう!」

 僕はワレスさんをうかがった。すぐにもギガゴーレムをとりもどしに行かないといけないし。
 ワレスさんは僕の視線を受けてうなずいた。

「まあいいだろう。ギガゴーレム奪還(だっかん)には、おまえたちの力を借りたい。だが、疲労があっては、まともに戦えないだろう? 盗賊団のアジトは、とりあえず見張らせておく。明朝早くに出発することにしよう」

 ん? 出発してくれ、じゃなくて、出発する?

「てことは、ワレスさんもいっしょに行くんですか?」
「あのキャラバンが目撃されたことが気になる。おれの目で確認したい。補佐でついてやろう」

 むふふっ。ワレスさんと旅だ〜!

 というわけで、ワレスさんはクルウにアジトの夜の見張りを命じた。

 そのあと、僕らはワレスさんの部屋で、ワレスさんとお食事会を楽しんだ。

 何かとキヨミンさんがハシャイでウルサイのをのぞけば、至福のときだった。騎士長のために特別に作られたごちそうは、それは美味。お酒も高級なやつがそろってる。一本九十八円の缶チューハイじゃないよぉ〜

 ワレスさんは食べかたもキレイだなぁ。王子様の蘭さんとならぶと王宮の晩餐会に来てる気分。

 あくまで、キヨミンさんをのぞけば、なんだけど。

「あーん、クルウさんがいなくなったからカッコイイ系がいない! 可愛いとキレイ系しかいない」
「あっ、しまった。アンドーくんが待ってる。呼んでもいいですか?」
「ああ、いいよ」
「ギャー! またイケメン来たー!」

 まあ、こんな感じだ。

「ワレスさんはなんで、キヨミンさんと仲よしなんですか?」

 不思議に思って聞いてみた。両者の接点がどうにも見あたらない。

「仲よし? 誰と誰がだ? コイツが勝手につきまとってくるんだ」

「だって、だって、ワレス様は受〇にも攻〇にもなれる貴重な美形なんですよ? この絶妙な中性美! 見ためは完全受〇だけど、性格は攻〇なんですよねぇ。ふふふ。もっと腐りやがれ〜」

 ワレスさんは深々と嘆息した。

「言ってる意味がわかるか?」
「いえ。わかりません」
「そうだろう? おれにもわからない。おかげで菓子は好きなだけ貰えるが」

 清美さん、腐女子だから……。
 異世界に来ても、健在だね。
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