第63話 高級ムチ。その名は……
文字数 1,685文字
「すぐに持ってきて!」
「はい。少々、お待ちくださいませ」
ふかふかのソファーで、ぎゅうっとぽよちゃんをダッコしてると、来た! 超高級ムチだ。
外箱がすでに高そうだよね。長さは一メートル弱。幅、高さは十五センチ。外はシックな黒い革張り。金色の刻印がいくつか押されている。どうやら品質を保証するギルドの印のようだ。
「これは世界でゆいいつの最高級ムチです。その名は——」
うんうん。その名は?
じらさないでェー。
美人の店員さんは僕らの目を見て、うなずいた。
わかってる、わかってる、ちょっと待ちなさい。あせっちゃダメよ、坊や。と、その目が告げていた。
「その名は、精霊王のムチです」
声を荒げることもなく、お姉さんは落ちついて宣言する。でも、その声にかすかにまざる誇らしさは隠しようがない、んだけど……。
「精霊王の?」
「はい」
「精霊王のムチッ?」
「さようでございます」
ええーッ! なにそれ?
「そんなバカな。精霊王の最強装備は剣じゃないの? 僕、精霊王の剣(レプリカ)っていうの持ってるんだけど? 本物の精霊王の剣を、数値もそっくりそのまま名匠が模したって言ってたよ?」
お姉さんはふっと鼻先で笑う。やっぱり坊やだと思われてる。
「精霊王の剣は持ちぬしによって、その得意な武器に姿を変えるのです。最後にこの武器を持った王がムチを得手としていたのでしょう。あるいは、これから持つべき者が」
ドッキン。それって、もしかして、蘭さんがムチを好んでるから、それでこの武器は姿を変えて待ってたってことなのかな?
「なか、見せてもらっていいですか?」
「はい。どうぞ」
店員さんは二人がかりで長いフタを持ちあげる。漆黒の箱のなかは真紅のビロードで包まれていた。ビロードをひらくと、ようやく、その美しいムチが姿を現す。
なんていうのかな?
ガラスでできたような儚げなムチだ。蘭さんが着てる精霊王のよろいとセットなんだと、ひとめでわかる。
先端に虹色のタバサのついた、オパールのように半透明な革でできたムチ。それが精霊王のムチ。
数値を見ると、攻撃力は0。
「えッ? ゼロ? 攻撃力がないんですけど?」
もしかして、詩神のハープみたいに、ほかのムチと融合することで強くなるんだろうか?
だけど、お姉さんは冷静に微笑んだ。
それにしてもほどよい茶髪のワンレンお姉さん。大人なオフィスレディーって感じ。ギルドは美人ぞろいなのに、なんで僕らのパーティーには一人も女の子がいないんだろうか? なぜに? ホワイ?
あっ、それよりムチだった。
お姉さんはセクシーなアルトボイスで説明してくれた。
「装備品魔法をごらんください」
どれどれ?
えーと、装備品魔法『王の闘志』効果は戦闘中、装備者の戦意がそのまま攻撃力に変わる。力数値=ムチの攻撃力。
「力が、そのまま武器の攻撃力に……つまり、実質は力プラス武器攻撃力。力×2ってことだよね?」
「さようでございます」
蘭さんの五万の力がそのまま攻撃力に……。
チートすぎて、しばらく僕らは呆然としていた。
言葉にもならない。
気をとりなおしたのは五分後か?
「ロラン。装備できる?」
「……できます」
やった。僕らの勇者はこれで力マックスまでふりきった。
早かったな……早すぎる。
まだ物語中盤なんだけど、大丈夫か?
「このムチ、いくらですか?」
「これはそうとう値が張ります……」
「いくら?」
「これほどでございます」
お姉さんはどこからかデコった計算機をとりだして、パパッと僕の前に金額を打ちだす。んー? ゼロがいっぱいすぎて、いくらかわかんないぞ。
「え、えーと……一、十、百、千——」
お姉さんは『そこからかいッ!』という目をした。目は口ほどに物を言う。雄弁だよ。
「本体価格が百億円でございます。かーくんさまはSランクの冒険者ですので、三割引きで七十億円。ただし、これにマージンが三割、修理保証、ギルド経費、まずしい人たちへの寄付など、もろもろをふくめて、しめて百三十一億一千万円となります」
割引かかったのに元値より高くなった!
いいもんねぇ。かーくん。億万長者だもんねぇ。