第28話 狂乱のロラン
文字数 1,610文字
紙。
防御が紙。
一回、自爆されただけで、いつ死ぬかわからない。
それって、そんなに恐ろしいことなのか。
蘭さんのパニックが止まらない。ずっとキャーキャー言いながら、研究所のなかを右往左往する。リーダーはロランだから、そうなると僕らはただ蘭さんについて走りまわるしかないのだ。
「ロ、ロラン。落ちついて。そっちはもう行った道だよ」
「イヤー! 鉄クズ! 僕の美しい顔に傷がー!」
ああ、そこか。なるほどね。だから恐怖でまわりが見えてない、と。
あははははと、残酷にもアンドーくんは笑う。
「オバケが出たときのかーくんみたいだがね」
「ええっ? 僕、あんなじゃないよ?」
「そげだねぇ。かーくんは仲間まで攻撃してくうけんね」
グッサー。傷ついた。
ハアハア。それにしても、こう走り続けるのは疲れるな。しかも、アレだ。
せめて戦闘中だけでも止まって休めればいいんだけど、蘭さんが先制攻撃ってのをおぼえてしまったせいで、戦闘開始直後にパパンとムチふって、終わり。なにしろ攻撃力が五万だから……。
おかげで、ずっと、ずーっと走ってる。
「ロ、ロラン……ちょっと、ほんとに僕、疲れたよ。少し止まって……」
「イヤー! 鉄クズー! 死ねっ。絶滅しろーっ。この世から種族ごと消えされッ!」
勇者にあるまじき罵声を発してる気がしたが、息切れして倒れそうな僕は意識がグルグルでかまってられない。
アンドーくんが馬車のなかから手を伸ばしてきた。
「かーくん。馬車にあがって、ちょっこし休むだが」
「そ、そうだね。外は蘭さんだけでも問題ないもんね」
馬車に戻って、やっと、ひと呼吸。
ん? ミニコがついてくる。ミニコはあたりまえのように、僕のとなりにすわった。
もしかして、ミニコって僕の付属物的なもの?
僕は自分のステータス画面を見なおした。所持品のページを出すと……ああっ、あった、あった。ミニコだ。装飾品あつかいになってる。
「ミニコって装飾品なんだ」
「ミ〜」
長押しすると詳細も見れた。
ミニゴーレム(ミニコ)
レベル12
HP77、MP0、力45、体力54、知力18、素早さ6、器用さ6、幸運18。
ああ、そうか。そうだったね。小さいモンスターってステ伸びにくいんだったね。守るを使わせたら、むしろ、ミニコが倒れちゃうな。これからは気をつけよう。
まあ、まだレベルも12だし、レベル40くらいになれば使えるようになるね。スマホさえ使えるようになったら、小説を書くで、かさ増ししてもいいし。
あっ、馬車が止まった。
蘭さんが肩で息をしてる。さすがに疲れたようだ。
僕は馬車をとびおりた。
「ロラン。馬車のなかに入ってていいよ。外は僕たちが守るから。ぽよちゃん、出てきてくれる?」
「キュイ〜」
蘭さんはフラフラしながら、馬車のなかへ——
いや、そのときだ。
「たすけてくれェー!」
ん? 何やら声が。
男だな。
「たーすけてくれェー!」
ハデだな。
「誰かが助けを求めてる!」
さっきまでフラフラしてたくせに、蘭さんは走りだした。
「ああっ、ロラン。ムリしなくてもいいのに」
「僕、ヤドリギと対決して、ほんとに悔しかったんです。母上を人質にとられて、兄上はあんなことに……イケノさんやアンドーさんのお母さんや、みんなのことがとても悔しかった。だから、もう誰にも僕と同じ悲しい思いをさせたくないんだ!」
「ロラン……」
ジーン。感動。
ロランは着実に勇者として成長してる。他人を思いやる気持ち。それは人間としてあたりまえのもののはずなんだけど、現実では誰でもが持てるわけじゃない。
僕は蘭さんを……ロランを全力で応援するよ。
僕らは全力で走った。一階をぐるっと一周すると、二階へつながる階段があった。
その前に男が倒れてる。
うん? どっかで見たような人だな。
あっ、汽車のなかでいっしょになった足モゾモゾのおじさんだ。
モンスターにまわりをかこまれてるぞ。助けなきゃ!