第157話 子ども(市松)か、竜か
文字数 1,457文字
建物の構造はずっと変わらない。まっすぐ続く廊下と縁側。片側にふすま。そのなかは座敷。
そして、ふすまをあけると、二、三室に一回、床の間に人形が飾られている。人形の種類は市松人形、張子のトラ、木彫りのクマ、まれに木彫りの竜だ。
トラ、クマ、市松人形は大したことないんだけど、竜だけいやに強い。
チャララララ……。
野生の木竜が現れた!
木竜は巨大化した!
出会い頭に必ず大きくなる。
そして固くて、物理攻撃がききにくい。
「ああ、また竜か」
「かーくん。いちいち部屋のなか調べる必要あるか? このダンジョン、歩いてるだけでエンカウントするモンスターいないだろ。床の間の人形だけだ」
「そうだけど、お姫様がつかまってるかもしれないし」
木竜のHPは三万もある。ザコの強さじゃない。攻撃力はさほどじゃないからいいんだけど。
地道にHPをけずっていく作業だ。ファイヤーブレスに弱いのが助かる。というか、それ以外ではほぼ効果ない。魔法のダメージを80%カットできるらしくて、炎系の魔法も大きなダメージにはならないし。猛とぽよちゃんのブレスが頼りだ。
木竜を倒した。経験値2000を手に入れた。650円を手に入れた。木竜は宝箱を落とした。木のウロコを手に入れた。木竜の魂を手に入れた。
「この木のウロコってなんだろうね?」
「さあ」
「市松人形が落とすお札は、戦闘中、敵の特技を封じるアイテムみたいだよ。けっこう便利だから、いっぱいためとこ」
「かーくん、ためるの好きだよな?」
「貯金は僕の生きがいだよ!」
そして使わずに死ぬタイプ……。
そういえば、ここって徒歩でエンカウントしないから、小銭拾いには最適なんだよなぁ。ひろう。ひろう。なんなら、同じ場所、行ったり来たりしちゃうもんねぇ。
ついに一回で百億円ひろうようになったからね。ちょっと廊下を往復したら、あっというまに千億だ。
「ああ、早く『小切手を切る』が使いたい。金額を自由自在にコントロール。やってみたい」
「かーくん。またいっぱい、ひろってるなぁ。兄ちゃんにもくれよ」
「この前、あげたじゃん。百億」
「兄ちゃん、買いたいものがあるんだよ」
「何?」
「ナイショだ」
「ナイショかぁ〜」
「ナイショなんだよぉ」
ハッ! ダンジョンでほのぼの会話を。
「もう、大事に使ってよ? 僕の可愛い小銭ちゃんなんだから」
またまた百億金貨を一枚、渡してやる。
廊下の端まで来た。
そこからとなりの建物まで、屋根つきの外廊下が橋のようにつながっている。
外廊下を渡っていくと、二棟めだ。折り返して今度は右に向かう廊下がある。
その前のところに、変な像があった。像というより何かの台座だろうか。少しクネっとした形の丸太みたいなもの。
「なんだろ。これ?」
「グリーンドラゴンの像って書いてあるぞ」
「あはは。ヘタクソにもほどがあるねぇ。丸太だよ。丸太」
「丸太だなぁ」
思わず笑いあってたけど、ミャーコポシェットがプッと何かを吐きだした。カタンと音がして、丸太にひっつく。
「あれ?」
「さっきの木のウロコだぞ。かーくん」
まさに、木のウロコだ。
木彫りの竜を倒して手に入れたウロコが、丸太にくっついてる。はがそうとしても、もうとれない。
チャララッチャ。
魔法でいつでも、ここまで帰ってこれるようになった。
あっ? 転移の像?
ラッキー。
これで街と屋敷を自由に往復できる。なんて親切なダンジョンだ。これまでで初めてなんじゃないの?
でも、それって、長丁場になるってことなのかも?
もしかして、攻略が難しいのかな……?