第55話 シャケの事情

文字数 1,580文字


 むうっ。竜兵士。コイツが出るってことは、街が魔王軍に襲撃されてるってことだ。

「やっぱり、あの謎の大男が魔王軍の手先なんだ」
「街の人たちが危ないですね」

 話しながら、蘭さんはスパンとムチをふるう。竜兵士ABは倒れた。盗賊とミニゴーレム(量産型)は、僕とミニコがやっつける。正直、チョロい。

「盗賊も出ますね。盗賊団も魔王軍の仲間なのかな」
「でも、野生の盗賊って言ってるけど」

 すると、馬車のなかからアジが顔を出した。

「おれたち、もともと盗賊団なんかじゃありません。みんな、おどされて、しかたなくしてるんです」

 走ってると敵とエンカウントしちゃうんで、僕らは休みなく戦いながら、アジの話を聞くはめになった。最近、こういうの多いな。

「おれたちはエレキテルの外にあるスラム街の住人です。みんな、工場の下請けなどして、まずしく暮らしていました。それでも、なんとか毎日やっていけてたんだけど、去年ごろ、スラムのなかで変な病気が流行ったんです」

「病気?」と、たずねたのは穂村先生。こういう話は興味あるのか。

「とくに小さな子どもや力の弱い女の人がバタバタ倒れて、胸が苦しくなって……それで、王都のえらいお医者さんだって男と、あのゴードンが来て、みんなを助けてやるから薬代を払えって。でも、その薬を飲んでも治るのは、ほんの数日なんです。数日おきに新しい薬が必要で。一回ぶんがすごく高いんだ。お医者さんは最初、優しくて、あと払いでいいからって、どんどん薬をくれたんだけど、あるとき急に、これまでのツケを払えって……」

 詐欺(さぎ)の匂いがプンプンするなぁ。
 僕は聞いてみた。

「薬代って、いくら?」
「一粒百万」
「ひゃ、百万っ?」

 なんじゃそりゃ。
 現実世界でも、たった一粒で百万もする薬なんかないよ? それを飲めばどんな病気もたちどころに治って、不老になるなんて薬でも製造されるようになれば話は別だろうけどさ。

 ましてや、この世界は現実よりだいぶ物価が安いんだ。最弱武器の木刀が五十円だからね。鉄の剣とかが千円で買えてしまうのに、なんで薬一粒で百万もするんだ?

「そんなの絶対、おかしいよ!」
「でも、ほんとにそれを飲めば治るんだ。飲まないと、どんどん弱って、なかには死んじゃった人も……」
「そうか。それで、街の人たちは盗賊をして、薬代を稼いでるのか」
「うん。利息もものすごく高くて。払えないと、奴隷として働かせるって家族をつれていかれる。うちも最初に母ちゃんが倒れて……姉ちゃんや妹のアユがつれていかれてしまった」

 ヒドイ。なんてヒドイ話だ。

「そうか。それでシャケは家族をとりもどすために、僕のお金を盗んだんだ」

 三千億円も……。

「ごめんよ。でも、兄ちゃんをゆるしてください。この前、兄ちゃんが大金を持って帰って、それで借金を全部払えると思ったけど、アイツらはまだダメだって。利息だけで二千五百億円だから、まだ借金は残ってるって言うんだ。姉ちゃんは帰ってきたけど、アユがまだ……」

 うーん。それはもう、お金はいいよ。あげるけど。
 でも、やっぱりおかしい。いくらなんでも薬代が高額すぎる。利息だって法定限度を超えてる。しかも医者の出てくるタイミングがよすぎるよね。裏があるに決まってるんだ。

「借金を払い続けても、そいつらはみんなを自由にしてくれない気がする。ね? ロラン」
「ええ。たぶん、正体は魔物です。ヤツらを退治しないと解決しない」
「でも、アイツはものすごく強いんだ! 街の腕自慢の男が何人も、アッサリ倒されたよ」

 僕は気になってたことを聞いてみた。

「アジ。さっき、あの大男のこと、なんて言った?」
「えっ? ゴードンのこと?」

 やっぱり!

「そいつは魔王軍の四天王、豪のゴドバだよ。ゴードンはゴドバが使ってた異名だ」

 なんと、四天王みずから出向いてたなんて。どおりで、とんでもなく強いはずだ。
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