第21話 鉄は熱いうちにとびちる
文字数 1,912文字
鉄クズはちらばった。
ちらばるって言うより、とびちるのほうが正しいよね?
言葉は正しく使ってほしいもんだ。
HP1しかなかったくせに、四方八方にクギやらなんやら飛散させた鉄クズは、まさにお手製爆弾だ。テロリストの無差別攻撃に街なかで遭遇してしまったに等しい。
「ギャアアー! 刺さる。刺さるよ」
「よろいから出てる部分に傷が……」
「キュイー!」
自爆だ。これは僕の好きなアレコレのゲームでも、たまにモンスターがやってきた攻撃。自分の命とひきかえに大ダメージをあたえてくる。
そりゃね。そのモンスターは死んじゃうよ? でも、こっちだって大きな痛手だ。街から出てまもないのに、こんなとこでMP大量に使うはめになるとは。
とは言え、戦闘は勝利した。
以下、テロップ。
戦闘に勝利した。
900の経験値を得た。
30円手に入れた。
チャラララッチャッチャ〜
チャラララッチャッチャ〜
チャラララッチャッチャ〜
ミニコはレベルが2になった。HP6、力3、体力3、幸運2あがった。
ミニコはレベルが3になった。HP6、力2、体力3、器用さ1、幸運1あがった。
ミニコはレベルが4になった。HP7、力3、体力2、素早さ1、幸運2あがった。
ミニゴーレム失敗作は宝箱を落とした。宝箱にはプログラムAが入っていた。
ブリキ人形は宝箱を落とした。宝箱にはブリキのオモチャが入っていた。
鉄クズは宝箱を落とした。宝箱には繊細な歯車が入っていた。
あれ? ミニコ、レベルあがった。
やっぱり、ちゃんと数値があるんだな。どこから見れるんだろ?
それより、早くみんなのHPを回復しとかないと。僕は200ちょっとしか減ってないからいいんだけど、ほかのメンバーも同じだけダメージ受けてれば、
そう。それに、蘭さんは? 蘭さんの美しい顔は大丈夫なのかっ?
いや、もちろん回復魔法かければ傷なんて、あとかたもなく治るよ? 治るけどね。なんとなく傷ついてほしくない。
「ロラン!」
あわててふりかえると……。
大丈夫だった。
蘭さんは両手でガッチリ顔を覆ってる。いないいないばぁの“いないいない”状態だ。
「ロラン……」
やっぱり、顔、大事なんだ。
そうだよね。絶世の美男だもんね。顔は美男の命!
「ロラン。もう大丈夫だよ?」
「ハッ! 息するの忘れてました!」
ようやく“ばぁ”だ。
それにしても、蘭さんの今のHPっていくつだろう?
ちょっと、のぞいてみる。
レベル28(職業 魔道戦士)
HP266(292)、MP135(148)、力103(113)、体力81、知力131(144)、素早さ191、器用さ134、幸運144。
カッコ内の数値は職業効果によって補正された数値だ。
つまり、魔道戦士の効果で一割り増しになって、292。
よろいの性能がめっちゃいいので、ダメージじたいは僕より少なく175。よって、残りHPは117。
うーん。それでも最大値の半分以下か。勇者の蘭さんがザコ戦でイチイチこのくらいダメージ受けてると、ちょっと厳しいな。鉄クズが三、四体まとまって出てきたら、もうアウトだ。
僕はこっそりスマホをとりだした。なぜかって?
僕にはとっておきの特技がある。『小説を書く』だ。じつは一番のチートスキルはこの技なんだよね。
僕が小説のなかで書いた内容は、この世界でも真実になる。
トレインジャック戦のあとまでは、汽車で移動中に書いておいた。なので、急いでそのあとのことをバーッと書くと、僕は蘭さんの数値をのぞいたとこから書きなおす。
***
それにしても、蘭さんの今のHPっていくつだろう?
ちょっと、のぞいてみる。
レベル28(職業 魔道戦士)
HP288(317)、MP135(148)、力103(113)、体力91、知力131(144)、素早さ191、器用さ134、幸運144。
***
これでいいかな?
HPを22、体力を10あげてみた。ほんとはいっきに100くらい伸ばしたいとこだけど、さすがにそれだと蘭さん自身に気づかれる可能性がある。これまでにもナイショで少しずつ上方修正してるんだけど、そこは気をつかって、バレないていどにしてるわけだ。
僕の幸運数値が99998っていうバカみたいに高いのも、じつはこのせい。
ほんとの僕のステータスには、バグで幸運の数値じたいがなかった。だから、ズルして『小説を書く』で、マックス数値まで入れたわけだ。1少なかったのは、ただの凡ミス。
さ、とにかく、これで少しは安心だ。
研究所めざして出発〜
なんて、気軽に考えてたんだけどね。このために僕らは窮地におちいることになる。窮地と書いてピンチ。