第269話 よみがえれ、フェニックス!

文字数 1,743文字


 か、壁のなかからオバケ……?

 見守る僕らの前に、金色に輝く何かがとびだしてきた。

「まったく、通りかかっただけで壁が襲ってくるとは、さすがに魔城だな」

 ハッ! この声は!

「ワレスさん!」
「ああ。薫じゃないか」

 はい。あなたのワンコ、薫です。ワンっ。

 はははと猛が笑いだす。
「つまり、壁の表裏だな。両側から攻撃しないと倒せない相手だったんだ。タイミングよかったな」

 ワレスさんもうなずいた。
「なるほど。壁一枚で城内が半分に仕切られていたのか。だから、探してもゴドバが見つからないのかもしれない」

 ワレスさんたちがいたのが、以前、僕らがさまよったほうだ。くずれた壁のむこうに、見おぼえのある壁紙のもよう。それに、ここ、三階だね。なつかしの幽霊店主がこっちをながめてる!

「じゃあ、そっち側にはゴドバやグレート研究所長はいなかったんですね?」
「変な機械の部屋はあった。たぶん、あれがおまえの言っていた人間を魔物に変える機械だろう。破壊しておいた。階下には捕まっていた人間も大勢いたからな。クルウたちが救助している」
「僕ら、ノームを助けて村へ帰しました。ふえ子のお母さんも、ここにいます」
「では、あとはゴドバだけか」

 あっ、そうそう。ワンコになってる場合じゃなかった。ふえ子のお母さんは無事かなぁ?

 見れば、あいかわらずグッタリはしてるけど、さっきまでのケージの妖しい光は消えている。機械はもう作動していない。とは言え、だいぶ弱っているようだ。

 僕らは鳥かごのまわりに走りよった。

「ピー! ピー!」

 ワレスさんたちの隊から、ふえ子もとびだしてくる。小さいからね。鳥かごの柵のあいだを通って、お母さんのそばに近づいていく。でも、お母さんフェニックスの反応はない。

「フェニックスは神獣だ。助けておくべきだな。蘇生呪文と回復呪文をありったけ、かけよう」
「はい!」
「呪文を使える全員が力をあわせるんだ!」
「はい!」

 僕、『はい』しか言ってない。
 ワレスさんの号令で、僕らの隊は全員、鳥かごの周囲に整列した。ワレスさんの隊からも司書長や魔法使いがかけだしてくる。

 鳥かごの外をグルリと人間がかこみ、いっせいに蘇生呪文を唱える。

「死なないでェー!」
「死なないでェー!」
「死なないでェー!」
「死なないでェー!」
「死なないでェー!」

 次は回復呪文だ。

「元気いっぱいー!」
「元気いっぱいー!」
「元気いっぱいー!」
「元気いっぱいー!」
「元気いっぱいー!」

 少し顔色がよくなった?
 でも、やっぱり目をひらかないな。

 猛が考えながら言った。
「フェニックスのステータス、ほとんどの数値がゼロだ。HPも0のままだな。これじゃ、どんだけ魔法かけてもよくならないよ。さっきの壁に数値を吸われたせいだ」
「そうか。僕らのつまみ食いやヴァンパイアの吸血みたいな働きを、あの壁がしてたんだね」

 猛は僕を見る。
「かーくん。フェニックスを救えるのは、おまえしかいない」

 よし! 今こそ、小説を書くだ!


 *

「壁に数値を吸われてたんだよね? そこにタンクみたいなものはないの? 奪われた力が一部だけでも、まだ残ってるかも」

 僕が言うと、ワレスさんの目がピカッと光った。さすが、ミラーアイズ。なんでも透視できるね。

「これだな」

 ワレスさんの剣が壁の一部を切り裂く。異様な輝きを放つボンベみたいなものが出てきた。ワレスさんがそれを切断すると、なかから光があふれる。その光は一直線にフェニックスに向かい、全身を包んで消えていく。

 僕はフェニックスのステータスをながめた。レベルは1だ。HPが1000になってる。力やその他の数値もたぶん、もとよりはだいぶ減ってるけど、とりあえずゼロではなくなった。

 パチリとふえ子のお母さんが目をさます。

「……あなたがたは……ああ、力が戻ってる。あなたがたが助けてくださったのですね。エルアラゾラン! よかった。無事だったのですね!」
「ピー!」

 誰? エルアラなんとか?
 ま、まさか、ふえ子なの?
 僕、ふえ子とか呼んじゃってるけど?

 だけど、とにかく、フェニックスのお母さんは助かった。ふえ子も……あっ、エルなんとかちゃんも嬉しそうだ。よかった。お母さん、早く元気になってね。


 *

 ふへへ。書けた。書けたよ!
 どうだ!
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