第176話 三位決定戦

文字数 1,547文字



 夜が明けた。
 今日は決勝戦だ。
 僕の人生でこれまで、大会決勝なんてあっただろうか? ないよ。もちろん、ない。
 だって休みの日は机にかじりついて小説書いてる、純然たる文系なんだからさ。

 けど、その前に、午前中は蘭さんたちとビーツパーティーの三位決定戦だ。

「早く。早く。兄ちゃん。いい席なくなるよ」
「ああ」

 蘭さんは無事なんだろうか?
 夜のうちにさらわれてないよね?

 案じながら会場へ行くと、よかった。ちゃんと来てた。二回も参加者が襲われたから、ホテルの見張りを強化したんだろうな。

「これより、三位決定戦が始まります。両チーム、位置についてください!」

 いつものアナウンサーだ。
 何があっても冷静に実況中継してくれる小柄なお兄さん。
 ああ、この人とも今日でお別れか。感無量。

 蘭さんたちとビーツのパーティーが向かいあってならぶ。

 蘭さん側の今日のメンバーは、蘭さん、アンドーくん、クマりん、バラン、ケロちゃんだ。きっとケロちゃんがごねたんだろうな。
 バランを参加させるために、トーマスがぬかれた……トーマス、リーダーなのに! トーマスパーティーなのに!

 まず、見どころは両チームの先制争いだよね。
 蘭さんの『先制攻撃』、ウォーターメロンさんの『先陣を切る』、両方のパーティーに先制する特技を持つ人がいたら、どっちが優先されるのか?
 もう気になって、気になって。

「どっちかなぁ? 先制攻撃かなぁ? 先陣を切るかなぁ?」
「やっぱ、そこは素早さの数値が関係してるんじゃないのか?」
「蘭さんと、ウォーターメロンさんのどっちが素早いかってこと?」
「そうなるだろ」

 ところがだ。
 僕と猛の会話に、また誰かが入りこんでくる。デギルさんだ。さりげなく、僕のポップコーンをつまんで食べる。しまった。キャラメルチョコレート味だった。デギルさんの好物だ。

「知らないのか? 特技の発動条件については、生来特技が職業特技に優先する」
「生来特技は生まれつき個人が覚えるやつですね」

 僕のつまみ食いや、小銭を拾うだ。

「職業特技は何かの職業についたら会得するやつ」
「そう。個人の技が職業に打ち勝つ」
「へえ。そうなんだ。でも、どっちも生来特技だったら?」
「そのときはランクが高いほうが優先だ」
「どっちも同じランクだったら?」
「ああ……」

 デギルさんは言葉に窮した。
 すると、クスクスと笑い声が。今度は誰だ?

「特技ランクが同じなら、レベルの高いほうだよ。教えてやったろ? デギル」

 ハッ! この声は!

「ワレ——」
「しいッ」

 僕の口はフードつきの青いマントで顔を隠した細身の男にふさがれた。でも、フードの下から、チョロチョロと金色の巻毛が見えてる。うわーっ。なんて綺麗な青ずきんさんだ。
 当然。僕の英雄。ワレスさん。

「どうしたんですか?」
「不審者がいないか見まわりに」
「そうですか!」

 はあっ。昨日から目の保養ができて幸せ。
 このごろ蘭さんとも離れてるから、慢性的な美形不足だからさ。
 えっ? 猛? 猛はナイスガイだよ。僕の好きな性別を超越した神々のような人ではない。いつもとなりにいる、ふつうの美形。

 ん? と思ったら、テンションあがってるの、僕だけじゃないぞ。
 デギルさんの顔が真っ赤だ。真っ赤な上、ふるえて変な汗もかいてるし、モジモジしてる。やっぱり、ほんとは憧れてるんだな。

「デギル。今年のビーツ隊はいいパーティーだな。バランスがとてもいい。あとは生来特技をもっと伸ばせば、四天王相手でも、そこそこ戦えるだろう」

 ワレスさんは一方的に感想を述べると、ぽんとデギルさんの肩をたたいて行ってしまった。デギルさんはひたすら赤い。

 なるほどねぇ。屁とも思われてないね。
 てか、かつての部下がすねてるって、ワレスさん気づいてるのかなぁ?
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