第69話 ニートになった僕ら
文字数 1,372文字
「ああーっ! 僕の幸運値が89998になってしまったー!」
いや、幸運だけじゃない。力と体力、知力もさがってる。これはマイナス10%補正だな。
職業についたとき、たいていはプラス補正とマイナス補正がついてる。けど、たまにマイナスにしかならない職業がある。『遊び人』なんかがその代表。
そうか。ニートもそれだったか。まあ、そうだよね。ニートって実質、無職だ。
「かーくんさん。ほかの職業にしますか?」
いや、でも、後半になればなるほど、マイナス補正しかつかない職業につくのはツラくなるんだよな。それなら、なるべく早いうちにすませとくほうがいい。
「いえ。いいです。ニートでがんばります」
蘭さんは勇神になるために、まずは僧侶だ。大僧侶にしろ聖騎士にしろ、僧侶をマスターしないとなれない。
「アンドーくんは何にする?」
「わは将来、武闘王になるために、まず騎士にならやと思う。騎士のためには詩人にならんといけんみたいだわ」
「詩人か」
「でも、その前に、わもニートになあかなぁ。習熟度があがぁでしょ?」
「そうだけど」
すると、蘭さんまで。
「僕もニートになろうかな。こういう弱い職業は早いほうがいい」
二人も僕と同じニートになった。
ニートパーティー。
人間が三人ともニート……。
僕ら、大丈夫かな?
いちまつの不安がよぎる。
——と、いつものように、たまりんがふらりと出てくる。
ん? たまりんも転職するんだ。たまりんは今、詩神だから、充分なんだけどな。
「たまりんさんはなんの職業になりたいですか?」
「…………」
「魔法使いですね? では魔法使いの気持ちになって祈りなさい。今日からあなたは魔法使いです」
ああ、たまりんも弱い職業になっちゃったよ。
まあ、なっちゃったものはしかたない。スラム街だからって、ダンジョンだとはかぎらないし。
僕らはそのあと、ギルドの小さな酒場でご飯を食べた。ミルキー城のギルドはまだまだ過疎なんで、席もすいてる。だけど、料理は美味。国の名前がミルキーっていうだけあって、クリーミーなシチューだとか、チーズをふんだんに使った料理が多い。うまうまだねぇ。
楽しい夕食だった。
満腹になってボイクド城の兵舎に帰ったので、その夜は熟睡だ。スラム街の問題はまだこれからだけど、ギガゴーレムは止めたし、貴族区の被害も少なくてすんだ。
幸せな気持ちで寝て起きて——
翌朝。
僕らの眠りはとつぜん、さまされた。バタンッと荒々しくひらくドアの音で目がさめた。
「おい、起きろ!」
うーん、まだ眠いよ?
ぽよちゃ〜ん。もふもふ、もふもふもふ……。
「起きろ!」
めくられる布団。
くぽちゃん? バランなの?
猛じゃないよねぇ……むにゃ。
「寝、る、な」
ん? なんだろう? もふもふって言うより、巻き巻き? ふさふさして、いい匂いがするなぁ。
僕はパチッと目をあけた。
そして、信じられないものを目の前に見て奇声を発した。
「イキャアアアアーッ!」
な、何? なんか覆いかぶさるくらいすぐ顔の上に巻き巻きの金髪と、寝起きに見るには麗しすぎる美貌がァーッ!
「フキャー! わ、わ、ワレスさん? な、なんで?」
「起きろ! エレキテルで大事件だ」
「ええーっ? ええーッ!」
「昨晩、貴族区の子どもたちが大勢、何者かに誘拐されたらしい」
な、なんですと?
それは一大事だ!