第75話 ヘドロの進化系

文字数 1,421文字



 はいよるヘドロはヘドロに。
 ヘドロは光に。
 つまり、あれか。はいよるヘドロって、スライムになる前のヘドロだったのか。

 二匹のスライムは嬉しそうにプルプルふるえている。

 いや、その、光になったスライムはいいよ? 内側から、うっすら光り輝くような、とてもキレイなスライムだ。プニプニ、モニモニしてみたい。

 だけど、だけどさ。
 ヘドロスライムは、まだヘドロだからね?

 うーん。大丈夫だろうか? 馬車に入れたら、なかが泥だらけに……。

 僕の戸惑いを感じたのだろうか?
 ヘドロスライムが悲しげな目をして、去っていこうとする。

「ああー! 待って、待って。行かないでー!」

 僕がイジメたみたいになるじゃないか。寝覚めが悪い。

「ごめん、ごめん。いいよ、いいよ。僕たち、仲間。ヘドロくんだって、いつか進化して光くんになるよ」

 ヘドロくんはプルプルふるえてる。

 ああ、なんかまた傷つけちゃったかなぁ?
 そんなにふるえなくても……んん、だんだんプルプルが激しくなってくる。まさか、怒ったの? そう? 激怒?
 仲間に誘っときながら、ヘドロ差別したから?

 プルプル。プルプルプルプル。

 あっ、モリーがガラスの蘭さんから森スライムに戻って前に出た。

 プルプル。プルプルプルプル……。

 こ、これはもしや、アレか?
 前に一回、スライムとモリーが向きあって、プルプルしたよね。

 思ったとおりだ。
 次の瞬間、モリーとヘドロスライムがふるえながら近づき、やがて一体に!
 パッと見、モリーがヘドロくんを食べちゃったみたいに見えるけど、そうじゃない。これはスライム特有の融合って現象だ。複数のスライムが一つになることで、残ったほうのスライムが相手の特技を会得する。


 チャラララッチャラ〜
 モリーが『はいよる』をおぼえた。『猛毒ブレス』をおぼえた。
 戦闘に勝った。経験値750、120円を手に入れた。
 ガーゴイルは宝箱を落とした。

「かぱっ」

 ガーゴイルの羽を手に入れた。
 はいよるヘドロは宝箱を落とした。

「かぱっ」

 泥パックを手に入れた。
 ヘドロスライムは宝箱を落とした。

「かぱっ」

 ドロ泥クリームを手に入れた。


「かーくん。宝箱あけるときに、いちいち『かぱっ』って言うの、やめてもらえますか?」
「えっ? なんで? 楽しいよ?」
「なんかイラっと来るんですよね」

 ちぇっ。しょうがないな。

「わかったよぉ。やめるよぉ」
「お願いしますね?」
「それよりさ。久々の仲間だねぇ〜」
「そうですね。光スライムかぁ。敵としてエンカウントしたことないですよね」

 ヘドロくんには申しわけなかったけど、これで馬車のなかの衛生は守られた。ごめん。ほんと、ごめん。やっぱ、ヘドロだから……。

 きっと、ヘドロくんはそんな僕の気持ちを察してくれたんだな。姿はアレだけど、心は優しい子だったんだ。
 これからはキモイって言わないようにしよう。

「光スライムの名前はどうしましょう」と、蘭さんが言う。

「ヒカルでよくない? なんなら、ヒカルン」
「あっ、僕、ヒカルンがいいなぁ。可愛いじゃないですか」
「だね。じゃあ、ヒカルンで」

 僕らのパーティー、スライム系が二匹になってしまった。
 モリーはすっごく嬉しそうに、プルンプルンと体を押しつけあってるけど。

 蘭さんも嬉しそう。
「ヒカルンの特技は『光る』と、『ライトシャワー』と『光の矢』か。光属性の魔法かな? なんだかワクワクしますね」

 うんうん。新しい仲間も得たし、再度、出発だ〜!
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