第198話 爆買い! 退職祝い

文字数 1,466文字



 バイト最後の日、ラフランスさんは魔法書を爆買いした。正確に言えば、僕に爆買いさせた。

「ほら、このへんが貴重な生来魔法。いつかバイト代がたまったら、おれが買おうと思って、とっといたんだ」と言って、棚の奥から、ありったけ出してきたからだ。

「一点物だとゴールド会員限定ショップに行っちゃうんだが、二、三点同時入荷したとき、まれに珍しい魔法がこっちにも流れてくるときがあるんだ。このへんは雷属性。プチサンダー、サンダー、サンダーバースト。サンダーバーストは単体攻撃だけど、威力は『燃えつきろ』と同等だよ。今なら五個ある」
「全部ちょうだい」
「おれもまだサンダーバーストは覚えてないんだ」
「……覚えたいの?」
「うん」
「じゃあ、一個あげる」

 魔法使いだからね。いろんな攻撃魔法を知っててくれるほうがいい。

「ほかには?」
「風属性は雷属性の一種でさ。数がすごく少ないんだ。『風よ吹け〜』『風よ吹きあれろ〜』の二種類。あと、雷風属性の『サンダーストーム』な。今なら、それぞれ三個ずつ——」
「全部ちょうだい」
「じつはおれ、吹きあれろはまだ——」
「一個あげるよ。ほかは?」
「水属性も職業では覚えられる数がかぎられてる。とくに最強魔法の『暴風雨〜』は職業では覚えられない風水属性だ。うちにも二つしかない」
「全部ちょうだい」
「じつは暴風雨は、おれもまだ——」
「あげるよ!」

 まったくもう。絶対、僕が金持ちだって見越してるよね? まさか、お金目当てで仲間になったわけじゃ……?

「あと、このへんは光属性ね。光属性はウワサじゃ、天使って職業につくと、覚えるらしいね。今、うちにあるのは『光れ〜』『もっと光れ〜』『みんな、もっと光れ〜』だな」
「それ、攻撃魔法?」
「攻撃しながら、めくらまし。威力は雷属性ほどじゃないんだが、闇属性の魔物の場合、ときどき、そのまま消滅する」

 つまり、闇の魔物に対しての即死魔法効果ありってことか。浄化されちゃうのかな。
 光れ〜は、今、ミニコだけが覚えてる。前に魔法書を使ったんだ。

「何個あるの?」
「三個ずつだなぁ」
「全部ちょうだい」
「ありがとうございます」

 あ、あれ?

「今度はくれって言わないんだ?」
「一度もくれなんて言ってないぞ。そっちが勝手に——」
「わかった。わかった。それはいいから」
「おれ、光属性魔法は生まれつき覚えるんだよな。聖なる光〜とか、光神爆発とか」
「人嫌いの光魔法使い!」
「人間アレルギーな!」

 とりあえず、光属性も全部、もらった。

「これだけ? 今、売れるの、これだけ?」
「白紙の魔法書、買ってくれたら、光神爆発、写してやるよ?」
「それ、大会のときにも使ってたよね?」
「光属性最強魔法なんだ。敵単体に最大級の攻撃をする。威力は燃えつきろの二倍」

 雷帝ほどじゃないけど、かなり強い魔法ではある。雷神の怒りと同ていどってことかな。

「じゃあ、お願い」
「白紙の魔法書の代金こみで、一億円ね」
「それだけ、やけに高くない?」
「光神爆発はたぶん、一生のうちに十回くらいしか写せないと思うんだ。だから、おれの老後のための預金に」
「…………」

 老後の心配をする大魔法使い……。

「わかったよ。お願い」
「じゃ、五分待ってくれ」

 棚から白紙の魔法書をとりだし、自分のひたいにあてて何やら念じる。たしかに、キラキラした光が魔法書のなかに吸いこまれていった。不思議なアイテムだなぁ。

「……はい。これ。やっぱ、疲れるなぁ。光神爆発は」
「はい。一億円ね」
「サンキュー。これで、おれの老後は安泰だ」

 まあ、いいんだけどね。
 貴重な魔法、手に入ったから。
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