第53話 エレキテルが危ない!
文字数 1,351文字
コックピットのなかの声が外まで聞こえるのは、なんで?
なんて言っちゃダメ。禁止。
そこはそれ。エンタメ小説は展開の速さが大事だから!
「よし。まずはここからもっとも近いエレキテルがターゲットだー! 行くぞ、ギガゴーレムよ!」
「ラジャーです。ギガゴーレム(プロトタイプ001)、これよりエレキテルを破壊しにまいります」
なッ、冗談じゃない!
そんなことさせてたまるか!
僕らは追いすがろうとするんだけど、悲しいかな。敵ターンの待機行動中なんだよな。身動きとれない。
と、そのときだ。
ううっとうめいて、三村くんが目をあけた。周囲を見まわして、状況に気づいたようだ。
「……ロラン。かーくん。すまん。ギガゴーレムは必ず、おれが——」
何をする気だ?
三村くんはよろめきながら、ギガゴーレムの足にとびつき、コックピットにむかうハシゴをのぼっていく。
そうか。三村くんは自分たちのターンだから動けるのか。もしかして、ギガゴーレムを止める気か?
「ムリだよ! 一人でどうにかできる相手じゃないよ!」
「そうです。シャケ! ムチャしないで、僕らと力をあわせて——」
ダメだ。三村くんは聞いてない。というより、聞こうとしない。何かをかたく決心している。
証拠に僕らを見おろす目が、少し悲しそうだ。
もしかして、三村くんは……。
「ねえ、ロラン。シャケ、死ぬつもりじゃないかな?」
「ええ……」
自分の命をかけても、ギガゴーレムを止めるつもりだ。
ああ、これでまた三村くんの株があがっちゃうよ。三村くん、なんでかけっこう人気あるんだけど。たぶん、こういうとこなんだよな。
僕らがあがいてるうちに、ゴーゴーとロケットを噴射させて、ギガゴーレムは飛翔する。天井にあいた丸い穴から飛びだしていった。
やっぱり! 悪い予感してたんだよ、その穴。
チャラっチャ〜
ギガゴーレムは逃げだした。
何? そのなさけない戦闘終了SE?
蘭さんが無事だったのはいいけどさ。納得できない。次のターンでやっつけられたのにぃー!
と、そこへ誰かがとびだしてきた。
「兄ちゃん! 兄ちゃーん!」
あっ、あの三村くんといっしょにいた少年だ。兄ちゃんってことは……。
「君って、シャケの弟なの?」
少年はうなずいた。
「おれ、アジ」
アジ!
海産物兄弟!
いやぁ、うちは猛と薫でよかったなぁ。しみじみと思う。
アジは涙を浮かべて主張した。どうでもいいけど、あんまり三村くんには似てない。
「兄ちゃんは悪くないんだ! アイツがアユを人質にとってて……」
「アユ?」
「一番下の妹だよ」
海産物じゃなくなったな。アユは川魚だ。
くわしく聞きたいとこだったけど、ワレスさんが片手で僕らの会話を制す。
「今はギガゴーレムを止めることが先決だ。おれはこのまま、エレキテルへ行く。エレキテルにはユージイ隊がいるからな。合流して、ギガゴーレムを追う」
おおっ、ユージイもこっちの世界に来てるのか。ワレスさんの話のなかで、わりと好きと言われることが多いキャラだ。
「あとはホムラだ。開発者のあいつが必要になるかもしれない。おまえたちは研究所に立ちより、ホムラをつれてからエレキテルへ来てくれ」
たしかに、そうだ。
早くギガゴーレムを止めないと。エレキテルの街が危ない!
第一部『異世界再臨』了