第65話 僕の装備は?
文字数 1,331文字
まだまだ買い物は続く。
僕ってさ。この世界ではお金の使い道に困るから、たまに爆買いすると気持ちいいんだよね。
「ロランの装備ばっかりだったから、なんか、ほかの人のはないの? 僕もうこのダサイよろいあきた」
オリハルコンのよろい、数値は高いし、いいんだけどさ。見ためがかぎりなくゴッツイよね。
いや、ゴツイ装備で統一されてるなら、それはそれでいいよ?
でも僕の装備は旅人の帽子、オリハルコンのよろい、炎の手袋、風神のブーツだ。ゴツイよろいに精霊のアミュレットをぶらさげた僕。旅人の帽子にはバラのコサージュをとめてる……。
「ちんどん屋だよね。ロラン、ちんどん屋って知ってる?」
「すいません。よくわかりません」
「だよね。今どき知らないよね。てか、僕も実物は見たことないけど」
店内の壁一面の鏡に映る自分の姿が悲しい。
すると、お姉さんはワンレンをサラリとかきあげた。
「ございますよ。お客さまにきっとお似合いになるだろう、かなり強い防具です」
「わ〜い! 僕もロランみたいにカッコよくなる〜」
「ただいま、お持ちいたします」
お姉さんがパンパンと手をたたくと——
「ん?」
んー。
僕は自分の目を疑った。
なんていうんだろう。既視感がヤバイ。
「これは?」
一瞬、僕の古着が誰かに勝手に売りにだされたのかなぁと思った。でも、よく見ると、その商品のほうが生地の感じが新しい。
うーん。強い防具っていうから、よろいが出てくるかと思ったんだけど、それはごくふつうの服だった。
しかも、僕が最初にこっちに来たときからずっと、よろい下として着てた私服のパーカーだ。デザイン盗用かってほど、よく似てる。さらには黒のパンツね。ごくありきたりのコットンパンツ。
「これは、なんですか?」
「とあるかたから買いとりました。世界に一つしかない手作り商品です。これを装備できるかたにだけ売ってほしいとのことです」
世界で一つ。手作り。
それって、なんとなく……。
商品の名前は、赤のファイターパーカーセット。
防御力は……ご、500だ! これまで見たどの防具より強い。魔法攻撃とブレスを20%カットしてくれる。
その上、ファイターパーカーだから? 力と素早さ数値がプラス100って。
スゴイ。
どう見てもただの布地でできた服なのに、蘭さんの精霊王のよろいの倍以上の防御力。
「手にとってもいいですか?」
「どうぞ」
たしかめると、ちゃんと僕に装備できる。裏地にネーム刺しゅうが入れてある。かーくんって。
さらにはポケットに招き猫のガマグチが入ってた。僕がなくした招き猫だ。
「……シャケ」
まちがいなく、これは三村くんが作った服だ。ガマグチをひらくと、なかに白い紙が。
『ごめんな』
たった一言。それだけ書いてある。
だけど、三村くんの気持ちは伝わった。
「これ、買います。いくらですか?」
いつもの三村くんなら、こんなときは思いきった高額にしてくるとこなんだけど。
「はい。そちらは一円です。マージンその他で一万一千円かかりますが」
やっぱり、そうだ。最初から謝罪のためにだけ、これを作ったんだ。
ふと気づくと、つうっと頬にすべるものがあった。
やっぱり、早く仲間につれもどさないと。絶対に、どんなことがあっても。