第178話 決勝戦1
文字数 1,813文字
「では、決勝戦です! 両チーム、位置について。始めッ!」
始まった。決勝戦だ。
当然——動ける! やっぱり、僕らが先攻だ。
「猛。僕、とりあえず、パタパタして素早さあげとく」
「わかった。じゃあ、HPの一番高いおれが、ダメージ量の少ない技で、いろいろ試してみるよ」
「あっ、待って。聞き耳はどうする?」
「じゃあ、ぽよちゃんにしてもらおうか。そのあと、ぽよちゃんは動けたら、はねるで素早さをあげる」
「わかった。ぽよちゃん。聞き耳、お願い!」
「キュイー!」
ぽよちゃんも気合いの入った目をしてる。キッとなった目がヤンチャそうで可愛い。
さて、聞き耳は?
リーダーのゴライさんは——おおっ、格闘王だ。デギルさん、あたってる。
特技は反射カウンター(100%)、ふんばる、千手観音。ふんばるはHPゼロになっても、たまに1残してふみとどまる特技だ。千手観音ってなんだろう? 聞いたことない。
副将は羊飼い。
「うわー。羊飼い。初めて聞く職業だ。特技、放牧。迷える子羊。毛刈り……毛刈り、なんかイヤな響き。刈りとられそう」
「中堅、重騎士。やっぱ、重騎士は武闘大会に必須職か。とくに変わった特技はなし」
「だね。次鋒、大僧侶。先鋒、武闘王。全体攻撃の剣の舞をしてくるね」
レベルはだいたい僕らと同じ。50から60だ。
みんな、絶対、この大会開催中に近くのダンジョンで鍛えてるよね?
数値を見ても、とくにズバ抜けてる人はいない。リーダーのゴライが一番高いけど、それでも力800ていど。ノーマルな数値だなぁ。いや、充分、強いんだけどさ。
ただ、全体にみんな素早い。素早さ500くらいはある。
ぽよちゃんは聞き耳だけで行動が終わった。一回しか動けないのか。あっちは武人系が多いからなぁ。
「じゃあ、おれ行くぞ」と言う猛を、アジがひきとめる。
「ちょっと待って。さきにおれに算術使わせてよ。もしかしたら、カウンターをすりぬけて必中するかも」
「なるほどね。いいよ。かけてくれ」
どうせ今の状態でも、通常攻撃は100%反射カウンターに返されるからね。もしも反射カウンターをすりぬけることができたら御の字って作戦だ。
「算術!」
アジも一回攻撃だ。
猛の両手が薄く光って、必中がついたことを告げている。
アジ、使える戦士になってきたなぁ。職業って大事だ。
「じゃあ」と、猛が言いかけたとき、今度は、たまりんが動いた。ポロンとハープを弾く。
「あっ、そうか。月光のセレナーデで魔法バリア張っとけば、カウンターで魔法反射されても、こっちのダメージないもんね」
それに、月光のセレナーデでダメージを受けてるうちは、神獣の気への魔法攻撃が回避されることになる。ということは、そのあいだ、僕らのチームは実質、ダメージを受けることがない。
たまりんは賢神になったので、その効果で行動回数がプラス2される。もっと固くなれ〜を二回、猛にかけた。ゆらゆらするだけなんだけど、なんとなく察した。
「じゃあ、今度こそ。兄ちゃん、やってみるな」
「うん」
猛はまずブレス攻撃をした。
「プチファイアー!」
プチか。プチなんだね。
プチだけど、ブレスはすべて全体攻撃だ。
「うわっ、アイツ。火を吹いた!」
「やっぱり竜人なんだ」
「今どき竜人なんて見たことないぞ」
「プチファイアーなのに、バタバタ倒れてく!」
観客席の野次が心地よかとです。思わず、知りもしない博多弁を使ってみたくなるほど気持ちいい。へへへ。
この前、ブレスの攻撃力は猛が説明してくれた。
(力+知力)÷レベル×10……はギガブレスだ。プチだとレベル×3。
今の猛のレベルは61。武闘王と重騎士をマスターして力のマスターボーナス値も、さらに20%アップしたから、プチファイアーブレスでも、約750のダメージを与える。
ありがたいことに、反射カウンターはパーティー全体を守るものじゃなかった。猛のプチファイアーで、ゴライと重騎士以外はみんな倒れた。よし。回復役がいなくなったぞ。
だけど、やっぱり、ブレスも反射される。ゴライが変な動きで手をふると、まっすぐ猛のほうに返ってくる。
「アチチ……ブレスも反射か。てことは、たぶん、魔法もダメだよな」
言いながら、猛は魔法を放った。
「プチサンダー!」
ああ、ズルイやつだ。兄ちゃんばっかズルイやつだ。
いいなぁ。僕も生まれつき雷魔法使いたかった。
とか言ってたら、ああッ! 雷跳弾!
僕に直撃なんですけどー!