第249話 食べるブタとは話せない

文字数 1,559文字



 食堂のブタを全部、失神させてしまった。
 なんだったんだ?
 ま、僕はいっぱい力をつまみ食いできてラッキーだったんだけど。ブタさんたちは力の数値が高い。

「しょうがないから詰所に行こっか」
「食堂でこれなら、詰所は用心したほうがいいてすよ? かーくんさん」
「レベル300ぶんあがったな。知力3000アップだ。おっし。賢神マスターした! 知力とMPに30%のマスターボーナスだ。やっと知力二万だ!」

 ランス、知力のことしか考えてないな。トーマスはまじめで慎重派。

 詰所を外からのぞいてみる。

 まさか、食堂でみんなが襲ってきたのは、僕らがほんとは人間だとバレてたからじゃないよね? に、匂いかな? 匂いで人間だってバレるのかな? 人間の匂いって、どんなだろう?

 僕が自分の腕をクンクンかいでると、詰所の兵士がこっちを見た。あっ、しまった。目があった。また戦闘音楽が鳴り始めるのか?

「おっ、坊主? どうした? 迷子になったのか?」

 ん? 僕? 僕のこと?

「そうだよ。おまえだよ。ガキがこんなとこ歩いてると、腹へって気が立ってるヤツらに襲われるぞ。気をつけな」
「腹へって……」

 まさか! だから、みんな襲ってきたのか? ハッ! もしや、僕らがアイツらのエサ——もとい、ご飯をとろうとしてると思ったッ? そりゃ、トウモロコシ嫌いじゃないよ? ないけど、ブタさんから奪ってまで食べないって!

「あの、えっと、そう。迷ったんです。広いお城ですね」
「そうだろ? グレート研究所長さまのおかげだよ。さんざん野ブタだのなんだの陰口たたかれてた、おれたちオーク族に、こんなに立派なお城を建ててくださるとは」

 ふうん。このお城を建築したのは、グレート研究所長なのか。ゴドバの右腕になったから、職権濫用(しょっけんらんよう)して、故郷に(にしき)を飾った感じ?

「グレート研究所長はどこにいるんですか?」
「いつもの古城だよ」
「ふうん。このお城にはいないんだ」
「えらいかただからな。こっちの城までは、なかなか来られないさ」

 なるほど。オークたちのあいだでは尊敬されてるのか。ただのナルシストなブタじゃなかった。

「えーと、外の空気を吸ってみたいんだけど、どっちに行けば出口があるんですか?」
「外門なら、あっちだよ」
「ありがとう」

 むう。詰所のほうが正解だった。意外と親切な兵隊さん。
 ただね。ここでも僕は子どもあつかいされるんだよね。いったい、オーク的に何歳だと思われてるのかな?

 僕らは外門の方向へ歩いていった。城内は食堂以外、平穏だった。ブタさんは食べてるときだけ殺気立つのか。

「あっ、お店があるよ」
「ほんとですね」
「なあなあ。のぞいてみよう。なんか変わった魔法書とかないかなぁ?」

 武器屋と防具屋はとくにコレというものがない。いまだにハガネの装備だ。よくて炎シリーズ。今さら僕らが買うほどのもんじゃない。
 雑貨屋には焼きもろこしがあったので、空腹時のためにちょっと買っておく。あとは炎系の魔法カードとかね。

「あのぉ、最近、変わった話ってありますか?」

 僕は魔法カードを買いながら、店主に聞いてみた。情報収集だ。

「なんだい? 坊や」

 ブタのおばさんだ。エプロンつけてる。

「ほら、古城のほうで何かあったとかなんとか」

 てきとうに言うと、おばさんはうなずいた。ほんとに何かあったのか? ビンゴ!

「ああ、グレート研究所長さまが、ついに究極の魔物の改造に成功したって話だね」
「えッ? そうなんだ?」
「おや、その話じゃなかったかい? ブヒっ」
「あっ、その話です。ブヒっ」
「だよね。スゴイよね。究極の魔物ってどんなだろうね。いよいよ、オーク族が世界を支配する日が来るのかねぇ。めでたいねぇ。ブヒっ」
「そ、そうですね。ブヒっ」

 究極の魔物?
 そんなもの造られちゃ困るんだけど! 絶対、阻止しないと。
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