第137話 秘密作戦

文字数 1,603文字


「どうしたんですか? かーくん。早く、ここ、すわってくださいよ」
「……ロラン。なんで、ここに? いったい、いつヒノクニについてたの? ぜんぜん、手紙も返ってこないしさ。心配してたんだよ?」
「すいません。これには事情があって」

 よかった。蘭さん、とりあえず、何かあったわけじゃなかったんだ。またさらわれたのかなって考えてた。

 僕らはゾロゾロと部屋にあがりこむ。むこうがわから障子(しょうじ)があいて、アンドーくんとトーマスも入ってきた。トーマス、早技!

「トーマスにだまされたんだと思ったのにぃー」
「すいません。どうしても秘密裏に話さないといけなかったので」

 トーマス、表玄関から急いでさきまわりしてきたのか。ハアハア息を切らしながら頭をさげる。

「いったい、何があったの? こっちもさ。いろいろ報告があるんだけど」

 コタツをかこんで六人は厳しいなぁ。しかも男ばっか。

「じつはですね。今回の大会、優勝賞品として、豪のゴドバの片腕を出しているんです」
「うん。知ってる」
「…………」

 蘭さんは気をとりなおした。

「それで、ゴドバが自分の腕をとりもどしに来るじゃないですか。僕らは大会に参加して、誰がそれなのか正体を見きわめないといけないんです」
「うん。そうかなぁと思ってた」
「…………」

 ちょっと時間がかかったけど、なんとか蘭さんは気をとりなおした。

「そういうわけなので、僕らが勇者パーティーだと知られるわけにはいかないんです」
「だから、トーマスをリーダーにして、ロランは目立たないようにしてたんだね」
「…………」

 あっ、今度はなかなか立ちなおらなかった。

「かーくん。なんで、みんな知ってるんですか! せっかく、僕らが苦労して秘密にしてきたのに」
「なんでって、えーと……」

 なんでだっけ?

「街の人……じゃないな。そうそう。ダルトさんから聞いたんだ。だから、ボイクド城内ではゴドバの腕のことは、ひそかにウワサになってるんじゃないの?」
「そうなんだ。それって、ボイクド城に魔王軍のスパイがいるってこと?」
「スパイとまでは言えないかもしれないけど」

 蘭さんは考えこんだ。

「わかりました。そういうことなら、ちょっとアイツに相談してみましょう」

 アイツ=ワレスさんだな。なんであんなに気があわないのか。

「それにしても、蘭さんたち、推薦枠とるにしても、メンバーに三人しか人間いないんじゃないの? あっ、バランは精霊族だから人間として登録できたのかな?」
「ええ。バランもできたし、コビットのピコピラーやクッピピも登録できました。だから、クマりんやモリーの頭にコビットを乗せて戦うつもりです」
「ふうん。僕らもなんとか五人登録できたよ。あとね。今日の試合にシャケも出てた。傭兵として雇われてるんだ。たぶん、シャケもゴドバを探してるんだと思う」
「かーくんたちはこのまま僕らとは別のパーティーのふりをしてるほうがいいでしょう。ゴドバを油断させることができる」
「わかった」

 だけど、このまま勝ち進んだら、もしかして僕ら、蘭さんのパーティーと対戦するんじゃないかな、と思ったけど、そこはそれ。なんとかなるだろう。ゴドバを倒すことのほうが大事だしな。

「あと、ワレスさんに伝えてほしいんだけど、僕、ヒノクニに来てから何度か街なかで魔物を見かけたんだよね」

 義のホウレンの配下が夢の巫女を探してることを告げる。蘭さんはそのことを知らなかった。

「義のホウレンですか。四天王が続々と動いてるんですね。わかりました。そのことも伝えます。じゃ、何かわかったら、また連絡します」
「あっ、ロランの預かりボックス、返しとく。僕も自分用の手に入れたから」

 蘭さんたちは立ちあがった。
「じゃ、僕たちは行きますね。僕は素性を隠すために、試合には女装して出場しますからね」
「う、うん」

 僕らは別れた。
 なんにしろ、蘭さんが無事でよかった。
 ゴドバを今度こそ追いつめることができるかな?
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