第78話 水守戦2
文字数 1,368文字
「えっと、この柄杓ですよね?」
スラム街でおじいさんにもらったやつだ。こんなとこで役に立つとは。
僕がペットボトルの水を柄杓にそそごうとすると、水神さまが首をふった。
「一回でも別の入れものにふれた水はイヤじゃ」
ああッ! ワガママだな、もう。わかったよ。もう一回、とりに行けばいいんでしょ。
「ちょっと待っててください!」
僕はもう一度、奥へむかう。
あっ、そうそう。その前にさっきのダメージを回復しとかないと。
「元気になれ〜」って笑いながら自分に話しかけるの、恥ずかしいからねっ?
もしかしたら、まだオオサンショウウオ、失神しててくれるかなと思ったけど、起きてた。僕を見て、ちょっとイヤそうな顔をする。
「ごめん。水神さまが、自分用の柄杓じゃないとダメだって言うから、もう一回だけ水をくませてほしいんだ」
オオサンショウウオはちょっと考える仕草をしてから、イヤイヤそうに、かるく胸をトンとたたいた。
「ピキ……」
かかってこい……とため息まじりに言った。やっぱり、わかりやすい。
「じゃ、行くよ」
チャラ〜、チャラ〜
やっぱり今度も楽しい音楽がかかる。
だけど、これ、ミニコがいてくれなかったら、そうとう苦戦するからね?
攻撃のたびに必ずカウンターが来る。しかも、相手のターンにはふつうに攻撃される。つまり、こっちは一ターンの往復に二回の攻撃を食らうんだ。こっちの攻撃は一回。
あるいは素早さ数値が高ければ、相手のターンに移る機会をあたえないかもしれないけど、それでも一回につき一度の反撃は必ず来る。
ミニコ買っといて、ほんとよかった。七千万円でも安いくらい。
僕はタタタッとかけより、ポコン。そして、ドカンとカウンター。ミニコが来て空手チョップ。
チャラララっチャ。
戦闘に勝利した。経験値1000、千円を手に入れた。
水守は宝箱を落とした。
「かっ——」
いや、やめておこう。
そろそろ本気でやめないと、クセになる。
宝箱のなかには水守のお守りが入っていた。水守のお守りを手に入れた。
レアなアイテム二つもゲットだぜー!
はい。今度こそ柄杓に水をくむ。
なんか、口をあけて倒れてる水守が妙に可愛いなぁ。仲間にしたいけど、きっとコイツはここで水神さまの泉を守るのが務めなんだろうな。
「バイバイ。二回も叩いて、ごめんよ」
僕は祠まで帰った。
「はい。泉の水。これでいいんですよね?」
「おお、これじゃ。これ。どれどれ。美味い! やはりあの泉の水は美味いのう」
水神さまの体が三倍くらいに大きくなった。それでも竜にしては可愛いサイズだけど。さっきのオオサンショウウオのほうが大きい。
「では、そちの願いを叶えてしんぜよう。ホニャラ〜フニャラ〜。ケアヨギカ〜!」
水神さまの目がピカーッと光る。
すると、ようやく、コンクリ建てのドアがカチリと音を立てた。カギがあいたようだ。
なんか、久々にRPGっぽいことしたなぁ。
「水神さま。ありがとうございます!」
「うむ。気をつけて行くのじゃぞ。この地の底に巣食う悪いものを打ちくだくのじゃ。さすれば、わしの住処も居心地ようなるでのう」
「ははは……」
井戸の水がキレイになれば、スラム街の人たちも毒の水に悩まされることはなくなるしね。
さあ、いよいよだ。
僕はドアノブに手をかけた。
かるくきしんで、ドアがひらく——