第218話 暗殺者スリーピング戦5
文字数 1,610文字
うわー! 来ったー!
なんでこのタイミングで? あとひと押しで終わるんだけど……。
「どけッ! おまえら。そいつは、わしらの獲物だ!」
「…………」
「…………」
いや、獲物にされるのそっちだよね?
どうせまた『賭けてみる』やる気でしょ?
僕らの——というか、僕とアンドーくんの視線を感じたのか、キルミンさんが必死にたのみこんだ。
「お願い。わたしたちにやらせて。そいつは仲間のかたきなの。イーサが『賭けてみる?』を使った瞬間、そいつがイーサの幸運を吸いとった。そのせいで賭けてみるは失敗したわ。わたしやダルトは魔法で生き返ったけど、イーサだけは……たぶん、幸運の数値をゼロにされたせいだと思う」
それは、あるかもしれない。とくに蘇生魔法が完全復活の『死なないでー!』なら百パーセントよみがえるけど、確率要素のある『死なないでー?』の場合は、幸運の数値が関係してくるかも。
そうか。さっき、猛がスリーピングから吸いとった幸運数値のなかには、イーサさんが奪われたぶんも入ってたんだ。
キルミンさんは続ける。
「だから、あたしたちはあの日、イーサの墓前で誓った。イーサを殺した女を見つけたら、必ず、彼が得意としてた『賭けてみる』でかたきを討つと」
僕は猛や蘭さんを見た。
猛は無言だ。冷静な現実主義者だからな。内心は賛成じゃないんだろう。
蘭さんは涙ぐんでる。やっぱり、こっちの世界の蘭さんは十代だからな。気持ちが優しい。いや、現実世界の蘭さんが冷たいと言ってるわけじゃないよ? ないけどね。
アンドーくんやトーマスはうなずいた。やらせてあげてみてよと目が語っている。ラフランスさんはもろに泣いてた。涙もろいんだ。さみしがりやだからか?
「わかりました。やってください」
よく考えたら、今のスリーピングは幸いにして、素早さゼロ、幸運ゼロだ。
いくらダルトさんの幸運が低くても、さすがに賭けてみるで勝てるんじゃないか?
くどいけど、もう一回、説明しとく。『賭けてみる?』は遊び人になると覚える職業特技の一つだ。敵か味方のどちらかが必ず全滅するという、究極のギャンブル要素を持つ恐ろしい技。
この特技は対象の敵と術者の幸運値の高いほうが勝つ、と言われている。それだと数値を見る技があれば、ギャンブルも何も計算して使えるんだけどね。
ただ、スリーピングのように相手の数値を奪う敵だと、その計算をくつがえすことができるってことだ。
「よし。キルミン、やるぞ。イーサの敵討ちだ」
「ええ。ずっと……ずっと、この日を待ちわびていた」
ダルトさんとキルミンさんが馬からおり、僕らの前に立った。
うん? 変だな。
音楽がやまない。
ま、まさか、このパターンは、また僕らもあの人たちの仲間に入ってしまってるのか?
僕は馬車のみんなにたずねた。
「戦闘音楽聞こえてる?」
「いえ。途中でやみましたよ」
「じゃあ、前衛の僕らだけか。たぶん、ダルトさんとキルミンさんが前衛で、猛と僕は後衛のあつかいなんだ」
「かーくん。兄ちゃん、馬車に入ってもいいか?」
「は、薄情者ー!」
「ははは。かーくんが倒れたら、すぐに助けてやるから」
みんながイヤがる、ダルトさんの
賭けてみる
。今度こそ、成功……するんだろうか? 心配になる。
せめて僕にやらせてくれたら、確実に勝つのにな。
とつぜん、スリーピングが笑いだした。
「吸ってやる。吸いつくしてくれるわ!」
あッ! まだこっちのターンのはずなのに。
そうか。僕の小説を書くがターンや行動順に関係なく、いつでも使えるように、スリーピングの吸血も、敵のターンにでも使用可能なんだ!
危ない。ダルトさんの幸運が吸われたら、またやられちゃう!
「ダルトさん、ダメだ!」
「吸血ー!」
僕とスリーピングの声が重なる。でも、そのときにはもう、ダルトさんは叫んでいた。
「賭けてみる〜?」
ああッ! 終わった。またもや道づれ食らっちゃったかー!