第127話 中堅はシャケ、だけど

文字数 1,913文字



 赤組、二勝だ。あと一勝で勝ちぬきじゃないか。

「兄ちゃん、ヤバイ。会場に行っとかないと、三村くんに逃げられてしまう」
「おっと。急ごう」
「じゃ、デギルさん。僕ら、行かないといけないんで」
「おお、ボルカミック隊になんか負けるなよ」

 デギルさんに見送られて、僕らはバックゲートへ急いだ。ゲート前なら、勝っても負けても、なかから出てくるとこにぶちあたる。

 僕らは階段をかけおりた。観客席は混んでたし、ゲートまでけっこう距離はあった。それにしたって、全速力で走ったんだ。時間にすれば、たぶん、五分。

 ところがだ。観客席の裏にまわり、参加者や大会関係者しか入れないゲートの前についたとき、試合はもう終わってた。アナウンスがここまで聞こえる。

「本日の第一試合、朱雀赤組の勝利です!」

 ああ、さきに三勝したんだ。
 三村くんはどこかなぁ?
 あれ? 赤組、四人しかいないぞ。

「三村くんがいない!」

 そうこうするうちに、会場から参加メンバーが出てきた。

「あっ、魔法屋のお兄さん。強かったですね! カウンターの陰でガタガタふるえてるだけの人かと思ってた」
「うわァーッ! おれに近よるなー! 人間!」

 ……性格が変わったわけじゃなかったのか。

「あの、あなたたちのパーティーが雇った中堅のシャケ、どこに行きましたか?」
「知らないよ。よるなってば。じんましんが出るだろ」
「……知らないって、でも同じパーティーでしょ?」
「アイツは試合以外のときは、一人でどっかへ行ってしまうんだよ」

 くうっ。逃げられたあとだったか。
 予選で有名になってしまったから、僕が会場にいることは三村くんも知ってたはずだ。さけるために即行逃亡したんだろう。

「うーん。じゃあ、次の試合には出るよね?」
「たぶん。でも、そろそろアップルも到着すると思うから、代役は必要なくなるかも。ただ、アイツはけっこう強いよ。できれば正式メンバーにしたいとこだ」

 それは僕らだって知ってるよ。

「次の試合はいつですか?」
「今日の予定の全試合が終わったら、明日からのマッチングやるんだってよ。それよりさ。そこから近よるな」
「はいはい。ごめんなさいねぇ」

 聞きだせることは聞いた。
 明日、試合前に来て探すしかない。

「シャケ兄ちゃん、行っちゃったんだ……」

 アジがガッカリしてる。
 僕らじゃ兄弟のかわりにはなれないんだ。まあ、そうだよね。僕だって、家族と友達では安心感が違う。

「明日こそ、きっと見つけて話をしよう。ね? アジ」
「うん」

 もうじき、僕らの試合だ。今から会場の外まで探しにいく時間はない。

「次の試合まで、あと何分あるかな?」
「十五分だな」

 対戦相手も会場にやってきた。このまま試合開始を待つしかないか。
 僕らは会場脇に張られた参加者の休憩用テントに入った。パイプ椅子がある。せめてもうちょい、すわり心地のいい椅子がよかったなぁ。

 敵パーティーを観察する。
 昨日、僕にやられた茶髪の戦士。武闘家系の男。重騎士だろうな。重そうなよろいの男。あとは皮のローブの女の人と、女僧侶だ。
 力技三人と回復役一人、魔法使い一人ってとこか。

 あっちもジロジロ見てくるなぁ。
 うちってこれまで僕しか戦ってないから、あとのメンバーの戦力は謎だもんね。

 なんとか、猛の戦力を隠したまま次の試合につなげたいもんだけど、アジがどれくらい戦えるかなぁ。
 あと、ぽよちゃんはモンスターだ。いつも戦いかたは僕が命令してる。自分の考えで動けるかどうか。
 たまりんはふだんから独自の思考で僕らのピンチを救ってくれる。作戦の面では問題ないだろう。

 僕はぽよちゃんをだっこして、敵チームから離れたテントのすみまで行った。ちなみにテントと言ってもキャンプで使うピラミッド型のやつじゃない。体育祭とかで校庭に建てられる鉄の支柱に幌をかぶせたやつだ。けっこう広い。

「ぽよちゃん」
「キュイ?」
「ぽよちゃんの番になって試合が始まったらね」
「キュイ」
「まず、はねるで素早さをあげるんだよ?」
「キュイ」
「で、たくさん動けそうだったら、『弱点つくよ〜』のあと、ためるでテンションあげてから攻撃ね」
「キュイ!」
「でね。もしも相手も素早くて、一回か二回しか動けないなら、最初のターンは、はねるだけ。次のターンはHPの減りぐあいを確認して、回復が必要なら回復。必要なければ、またはねる。三ターンめも回復を確認しつつ、弱点つくよ〜で攻撃だよ?」
「キュイ……」

 あっ、なんか、ぽよちゃんが困ってる。覚えきれなかったか……。

 心配だなぁ。
 でも、一対一だから、戦ってもらわないと。

「わかった。ぽよちゃんが勝てると思う方法で戦っていいよ」
「キュイ!」

 よし。僕らの試合だ!
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