第212話 オバケ狩り〜
文字数 1,749文字
たまりんが火の玉に戻っちゃった。くすん。
馬車は進む。ひたすら進む。
猛や蘭さんたちに任せとけば順調だからねぇ。
おかげで、職業の魂だけは、やたらに集まる。どうも後衛にいても、僕の幸運パワーは問題ないようだ。戦闘後、必ず魂が手に入る。
「洞くつのあいだは一個しか、魂、落とさなかったんですよ? 幸運数値ってこんなに影響するんですね。あっ、かーくん。あそこに宝箱がある」
蘭さんに言われて見あげると、岩棚のあいだに、ぽつんと宝箱があった。
「あっ、兄ちゃんがとってくるよ」
「猛、気をつけて。ミミックかもしれないよ」
「出るとしたら、ミミックも魂なのかなぁ?」
猛は羽があるから便利だよね。バサバサ飛んでって、宝箱のなかみをとってきてくれた。
「ハープだ。かーくん」
「わ〜い。たまりん、またハープだって。よかったね」
「ゆらり〜」
あっ、火の玉が美少女に見える、この不思議。
たまりんの正体って、精霊なのかな? 精霊の国の女神さまと姿がそっくりだし。
猛が着地して、見せてくれたハープはこんな暗い墓場の底にあったのに、妙に儚く悲しげな美しさを持っていた。
誰かが誰かの死を嘆いているような。
「攻撃力は15。装備品魔法は『黄昏のレクイエム』だって。効果はパーティーメンバー全員に、戦闘不能になったとき自動復活の予約だって」
「おっ、いいね。保険になる」
「だねぇ。はい、たまりん。あっ、ちょっと待って。攻撃力115にしとこ。ひひひ」
たまりんの詩神のハープに合体させると、四番めのターンに入った。やっぱり、死……だから?
さて、馬車は進んでいく。
後衛から見てると、やっぱり、タツロウも武闘大会で優勝するだけはあるね。強い。武器は日本刀だ。猛がブレスでほとんどやっつけちゃうんで、あんまりその戦いかたを見る機会はないんだけど、太刀筋がキレイだなぁ。
あと、何よりこの墓場で強力なのは、浄化の光って技だ。生来特技で霊を成仏できてしまう。そりゃそうだよね。本編シリーズでやってることだから。まさにこのダンジョンのために生まれたような男。
「そろそろ無職のツボの数がヤバイなぁ。もっと買ってくればよかった。基本職なんか売るほど手に入れたよ」
「かなり珍しい職業もあった気がします。それにしても、まだ王墓につかないんですか?」
蘭さんがたずねると、タツロウは微妙な顔つきになる。
「あなたは、まことにセイラにそっくりだ。ちょっと戸惑ってしまう。ほんとはセイラ姫と姉妹なのでは?」
「僕は男です」
「じゃあ、セイラの兄とか?」
「そのはずはないんですけど。でも、たしかにあの王女、僕と瓜二つだった。もしかしたら、どこかで血縁関係があるのかもしれない」
すいません。蘭さんをモデルにして、青蘭のこと書いたから。
でも、前にワレスさんが言ってたな。
この世界にはワレスさんをふくめ、僕の小説のなかの人物がたくさんいる。それらの人たちは、現実の僕の世界のパラレルワールドの住人なんだって。
僕はそういうのを妄想って形で見ることができる能力を持ってるんだって。
だとしたら、青蘭はどこかの宇宙に存在する、パラレルワールドの蘭さんかもしれない。
蘭さんは勇者として選ばれるくらいだから、この世界にとって、よっぽど大事な存在なんだろうな。だから、パラレルワールドの分身的な存在である青蘭まで呼ばれてきた、とか?
「王墓はもうじきです。だが、そこより奥へは行かないほうがいい。荒ぶる魂が数多く眠っているから」と、タツロウが告げる。
僕は口を出した。
「情報屋のオベッカさんが言ってた、最奥の魂だ!」
「そう。おそらく魔神か竜神だろう。もちろん、その魂を手に入れることができれば、これ以上ない旅の糧になるだろうが」
「タツロウさんは挑戦したの?」
「おれが挑戦していれば、その魂はもう墓場にはないよ」
「それもそうか」
それほど強いってことか。欲しいような、やめといたほうがいいような?
道が急に大きくカーブした。
カーブのさきは二又にわかれている。
「王墓はこっちだ。そこのまっすぐの道は、さっき話していた魔神の墓がある」
なるほどね。たしかに、めちゃくちゃ強い気配がただよってる。これは、戦うとしたら、バーサーカーじゃダメだ。かたぎの職業に転職してからじゃないと。