第161話 さらわれた蘭さん?
文字数 1,347文字
蘭さんがいなくなった!
これまでも何回もさらわれてるからな。とくに現実世界で。現実でさらわれやすいって、かなりヤバイ。
「そ、それで、試合はどうなったの?」
「いちおう、今日の夕方までは病欠ってことで延期してごさいた。でも、それをすぎたら棄権にするしかないと」
「まあ、そうだよね……」
困ったなぁ。すぐに探しに行ってあげたいけど、僕ら、セイラ姫も救出中だしなぁ。
「なんでだろう。やっぱり、勝ちあがりで強そうだからかなぁ? もしかして、昨日、ゴールディパーティーが闇討ちにあったのと同じ犯人かなぁ?」
まさか、蘭さんはとっくに殺されて……いやいや、そんな怖いこと考えちゃダメだ。大会で勝ちたいだけなら、どっかに閉じこめておけばいいんだもんな。
むしろ、大会にまぎれこんだ魔王軍に、勇者だってことがバレたんじゃないかと思うと、そっちのほうが心配だ。もしそうなら、それこそ命の保証がない。
「どうしよう。兄ちゃん……」
「二ついっぺんには解決できないよ。おれたちはまず、別荘攻略の続きだ。急げば、あと二時間くらいで終わる。そのあと、蘭を探そう」
兄ちゃんって、冷静すぎて、たまにちょっと冷たく見える。
だけど、そうなんだよな。セイラ姫のことだって、命が安全だって断言できるわけじゃないし。蘭さんは勇者だ。力は五万。自分で戦える。どっちかをさきにとなったら、無力なお姫様が優先だ。
はぁ。こんな不安なままで試合か。もう正直、試合なんかどうでもいいんだけど。
僕の考えを読んだように、パンと猛が背中をたたいてくる。
「かーくん。大丈夫だ。お姫様のことも、蘭のことも、兄ちゃんがなんとかしてやるから」
じーん……兄ちゃん。
頼れる男。それは猛。
「本日第一試合は予定により延期となりました。これより午後の部、第二試合をおこないます。参加チームは入場してください」
あっ、呼ばれた。行かなきゃ。
「じゃあ、みんな、力をあわせて、がんばるぞ。な? かーくん」
「うん! みんな、がんばろ〜」
「おー!」
「キュイー!」
「ゆらり!」
「ミ〜」
僕らは円陣を組んで、みんなの手を重ねた。
ああ、体育会系って感じ。一回、こういうのやってみたかったんだよね。現実の僕は徹底的な文学系インドア派。一生、縁がないと思ってた。
僕らは会場のまんなかへ進んでいく。反対側のゲートからは、ビーツ隊がやってきた。あの人間嫌いの魔法屋のお兄さんと、こんな形で対戦することになるなんて、思ってもみなかったなぁ。
「ビーツパーティー。大将ビーツ。副将ウォーターメロン。中堅ラフランス。次鋒ブルーベリー。先鋒アップル」
今日は選手の紹介されるんだ。客席は満席で、ワアワアと歓声がふりそそぐ。
「かーくんパーティー。大将タケル。副将アジ。中堅たまりん。次鋒ぽよちゃん。先鋒かーくん」
えへへ。僕がかーくんだよ。パーティーリーダーなのに大将じゃないんだよ。
両手をふると、観客がさわいでくれる。東京ドームを借りきったアイドルのコンサート会場みたいだ。
「本日よりパーティー戦です。制限時間は一時間。一時間たっても決着がつかないときは両者引き分けとなります。アイテムの使用は可。ただし大会の規定は守ってください。では、始めッ!」
ああっ、いよいよ対戦だ。
緊張するぅー。