第290話 数値がマックスになると
文字数 1,686文字
急いでホールまでひきかえす。
左腕がころがってる。
はいまわりながら、オークの力をとりこんだみたいで、また力の数値があがってる。僕はそれをチューチューして、外までひきずっていく。
「シャケ、アジ! ほかにも両足と首がお城のなかに入りこんでるはずなんだ。探して、僕に知らせて。ぽよちゃんやたまりんにも伝えて!」
「了解や!」
はぁ……やんなるな。キモさで言えば、これまでのボスのなかでダントツかも。
途中で左足と戦ってるぽよちゃんに出会った。
「ぽよちゃん!」
「キュイー!」
あっ、ぽよちゃんが泣いて喜んでる。可愛いなぁ。
「ごめんよ。ぽよちゃん。大変だったよね」
「キュイー」
「ちょっと待ってよ。コイツの力を吸いとってしまうから」
あ、あれ? 左足。力が一万もある。そうか。ぽよちゃんの力を吸血したんだな。
なんか、ヤバイぞ。僕の力の数値、さっきから、つまみ食いばっかりしてるから、七万超えてきた。これだと、あと二万弱でマックスになる。マックスになったあとって、つまみ食いしたら、どうなるんだろう?
とりあえず、力を奪いとって、左足をひっぱっていく。ロープがなくなってきたんで、外に出ると、あまってる剣で地面に串刺しにした。とりあえず、これで動きまわることはできないみたいだ。
「兄ちゃん。どうしよう。僕の力、八万になった」
「そうだろ。あと右足と首か。自分の力がマックスになったら、つまみ食いできないのかな?」
「わかんない」
「できなくなったら、つまみ食いで敵を倒せないぞ」
そうか。猛がこの前から気にしてたのは、それだったのか。
たしかに、すごく強いボス戦で、つまみ食いは有効な技だった。一回で相手の全部の数値をとりあげることができたからね。
でも、数値がいっぱいになったとき、もうチューチューできないとしたら……。
うーん。僕の傭兵呼びも、この島じゃ使えないんだよな。次々と封じられる僕の大技。あとは断捨離くらいか。断捨離は素手攻撃だから、ちょくせつ攻撃のきかない敵相手だと苦戦する。
「かーくん! 来てくれ! 右足、見つかったで。トーマスとアジが足止めしとる。足なだけにな」
三村くんが知らせに来たんで、とりあえず走る。城内にはまだ逃げまどうオークがいるな。
「みんな、逃げて! 早く。ここにいたら、アイツに食べられちゃうよ!」
ハッ! 右足発見。食堂のなかであばれてる。足の切断面から頭生えてきてるんだけどぉー!
「き……キモイ」
でも、やらなくちゃ。
「ぽよちゃん。行くよ?」
「キュイ!」
「聞き耳!」
「キュイ!」
ああ、いいなぁ。やっぱり、聞き耳はぽよちゃんじゃないと。
聞き耳によれば、ゴドバ(右足)はレベル3。3? 中途半端だな。HPは3000。力も3000。弱いな。だから、さっきから、ぽこんと一発やっただけで倒れるのか。
「キュイ……」
「どうしたの? ぽよちゃん」
「キュイ、キュイキュイー、キュキュウキュイ」
「…………」
見つめあう僕と、ぽよちゃん。
「キュイ……?」
「ごめん! わかんなかった!」
ああっ、ぽよちゃんをガッカリさせてしまったー!
ぽよちゃんは急に僕にとびかかってきた。妖精の爪が光る!
「ぽ、ぽよちゃんっ?」
「キュイ!」
シャシャッと爪をひらめかせたあと、今度は倒れた。
ああっ! ぽよちゃんが死んだー! 白目むいてピクピクしてる。
「ぽよちゃーん!」
ん? ピクピクしてたぽよちゃんが、ゾゾゾっと起きだして……。
もしかして、これって、ボディーランゲージか? ときどき、ぽよちゃんがやるやつ。
「えっと、戦闘になって爪でシャシャッとやった」
「キュイ〜」
「それで、死んだ」
「キュイ〜」
「そのあと、起きあがった」
「キュイキュイ〜」
戦って、死んで、起きあがった……何が?
「……ゴドバが?」
「キュイ」
ぽよちゃんは小さな手で、
「……一回、倒してしまったってこと?」
「キュイ……」
そ、そうか。左足の前に右足と戦闘してたか。ぽよちゃんは僕らみたいな四次元バッグ持ってないもんな。灰を吸いとれないか。
でも、これ以上倒すのはよくないぞ。倒すたびに強くなる……。