第97話 ヤマト到着〜

文字数 1,421文字




 船ごと子どもたちを引き渡したんで、僕らは猫車と仲間だけの少人数。
 でも、いいんだもんね。こっちには猛がいる。道々は猛に任せとけば、御者台から安全に小銭ひろえたし、らくちん。らくちん。

「ヤマトまで半日って言ってたよ。そろそろかなぁ?」
「まだ見えないよ。かーくんも外、出ないか? 兄ちゃん、そろそろ休みたいな」
「まあ、いいけど」

 猛に任せとくと、らくなのはいいんだけど、宝箱をドロップしないんだよね。経験値がもらえるだけ。

 松林が続く風景。遠景に山がつらなってる。たまに畑や田んぼ。ぽつりと茅葺(かやぶ)き屋根の家。トンビが輪を描いてるねぇ。ビルも電柱もアスファルトの道路もない。江戸時代の日本の風景はこんな感じかなぁ。

 猛と交代して、猫車の外は僕、ぽよちゃん、たまりん。僕に付属のミニコ。
 歩きだしてまもなく、急に猫車のなかで猛がさわぐから、何事かと思えば、

「かーくん! 小人がいる!」
「えっ?」
「ふえ子のグルーミングしてたら、小人がひっついてた!」
「えっ?」

 見ると、クピピコだ。
 僕らの旅についてきてるコビット族の戦士。

 この冒険録、コロナが流行る前に書きだしてるから、当時はコビットがコロナをさしてるなんて思いもしなかったね。小人とホビットをかけたネーミングだったのに。いや、まあ、こっちの話。僕はこのネーミングのままつらぬく!

「あれ? クピピコ。いつからいたの?」
「クピっ。コピコピ、ピコクピ」
「うーん……」

 あいかわらず難解なコビット語。が、今回は猛がいる。

「ずっと、ふえ子に乗ってたそうだ」
「そうなんだ。ごめん。気づいてなかった」
「クピピー、クッピー、ピコピコ」
「いやいや、かまわん。それよりクッキーをくださらぬか、と言ってる」

 まあ、いいか。クピピコはひと突きで相手の体をコビットサイズにしてしまう、コビット王の剣を持ってるからね。いてくれると助かるかも。

 ん? もしかして、ギガゴーレム戦のとき、クピピコにプチっと刺してもらっとけば……いや、考えまい。そんな小説的に盛りあがらない展開で勝つのは邪道だ。

 ヤマトへむかう道すじに出てくるのは、ニンジャ、サムライという人型エネミー。あとは武闘大会敗残者っていう、ならず者だ。可愛いモンスターいないなぁ。でも、サムライがたまに、いい刀を落とすんだけどね。僕には必要ない。

 道中はとくに苦戦することもなく、僕らはヤマトについた。あっけなさすぎて、つまんない。よく考えたら、このところ、切羽つまった戦いが多かったもんな。

「わあっ、ヤマトだぁ。大きな街だぁ」
「なんか美味いものないかなぁ。すき焼きとかありそうじゃないか?」
「あるかもね!」

 王都というだけあって、ヤマトはとてもにぎわっていた。街の門が東西南北に四つある。僕らは西から来たので、白虎門から入った。

 街の街路は碁盤目状になっていて、中心に王城や広場がある。家屋はやっぱり明治か大正っぽい。江戸時代ほど古くはないので、ときどき赤レンガの洋館なんかもあって、風情がある。

「それにしても旅人が多くない?」
「そうだな。武闘大会のせいじゃないか?」
「そうかも。蘭さんたち、もう来てるかなぁ?」

 ここで待ちあわせって言ってたけど、ギルドに行けばわかるかな?

 お店や宿は全部、日本語の看板が出てるから、すぐになんの施設だかわかる。ギルドは『義留堂(ぎるど)』だ。完全にあて字だけど、義の心をとどめる堂って、なんとなく意味は通じる。

 さっそく、なかへ入ってみた。
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