第116話 予選初日

文字数 1,469文字



 朝になった。夜中にあんなことがあったけど、あきれるほどよく寝た。
 夜が明けると、ぽよちゃんがまっさきに目をさますんで、僕らは目覚ましいらず。馬車のすみっこで立ったままのミニコも、パチリと目をあける。

「さあ、今日は武闘大会予選だね。ご飯食べたら、すぐ会場に行こう」
「朝飯はカツ丼かなぁ?」
「兄ちゃん、朝から重いものよく食えるね」
「朝から焼肉でも行けるぞ?」

 かーくんは行けないのかって不思議そうな目で見るんだよね。朝焼肉はさすがに、ちょっと……何より食うのに時間がかかる。

 まあ、それはそれ。
 験担(げんかつ)ぎのカツ丼を食べた(けっきょく僕も食える)あと、僕らは王宮前広場へむかった。
 朝早いのに、すでにたくさんの人が集まってる。

「はいはい。観客席はこっち。参加者はこっちね。あっ、坊や、観客はこっちだよ。入場料払ってね」

 案内係の人たちがたくさんいて、群衆を仕分けしていくんだけど、僕はまた子どもあつかいされた!

「参加者なんですけど。かーくんパーティー。ちゃんとエントリーしてあるでしょ?」
「ええーっ? 坊やが出るのかい? やめといたほうがいいよ。まあ、本戦まであがることはないと思うが、大会の参加者はどれもこれも各国の猛者ばっかりだからね。とくにゴライは強い。あたったら殺されるぞ」

 殺される? こ、怖い。
 大会ってそういうものなの?

 すると、よこからキルミンさんが割りこんできた。

「子どもをそんなにおどすもんじゃないわ。大丈夫。ルールで相手の命を奪う行為は禁止されてるからね。もし相手を殺してしまったら反則負けになるもの」
「そ、そうなんだ」
「さ、こっちよ」

 キルミンさん。意外と親切でいい人なんだよな。ダルトさんと組んでさえなければ、お友達になれるんだけど。

 僕はキルミンさんに手をひかれて、予選参加者の受付まで来た。

「ここで予選の対戦相手を決めるクジをひくのよ。あなたたちは最初に街へ来たとき、何門から入ったの?」
「白虎門です」
「じゃあ、白虎組ね。それぞれの組のなかで上位二パーティーが本戦に進めるの」
「そうなんだ」

 こう見た感じ、百やそこらのパーティーは集まってる。もしかしたら、それ以上。四つにわけても各組で二十五、六から三十くらいのペアか。とすると、予選だけでも最低五回戦は戦わないと、本戦に進めない。

「キルミンさんたちは何組なんですか?」
「あたしたちも白虎組よ。あなたたちと対戦するかもね」
「そうなんだ」

 僕は気になったので聞いてみた。

「大会でも、ダルトさんはあの戦法を使いますかね?」

 キルミンさんは大きく嘆息してから、苦く笑った。
「使うわよ」
「賭けてみるに特別な思い入れがあるんですか?」

 キルミンさんの表情がちょっとぼんやりする。昔のことを思いだすような。あんまり立ち入ったこと聞きすぎたかな? 反省。

「すいません。いいんです」
「……坊やには話しちゃおうかな。あたしたちのパーティーにはね。昔、最強の遊び人がいたのよ。とにかく幸運値が高くて、『賭けてみる』を使うと必勝だった。あたしたちは彼のおかげで負けなしだった。でも、あるとき——」

 そのときだ。人ごみのなかから、ダルトさんが近づいてきた。

「おい、キルミン。遅いぞ。みんな集まってる」
「あら、ごめんなさい」

 キルミンさんは手をふって去っていった。

 でも、あるとき——なんだったんだ? 気になる! すごく気になるんだけど!
 もしかして、わざと? 僕が戦いに集中できない呪いをかけたのか?

 猛がクスクス笑ってる。
「まあまあ。かーくん。おれたちもならぼう」

 そうなんだけどねぇ。
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