第120話 初日勝ちぬき
文字数 1,455文字
スパパンとかる〜く次鋒、中堅を倒して、初戦は僕らの勝ちだ。へへへ。やったね。
「兄ちゃ〜ん。勝ったよー」
「おう。よくやったな」
「今日は何戦するんだろうね?」
「午後からもう一試合くらいじゃないか」
ちょうどお日さまが正中だ。お昼ごはんだね。
街なかまで帰らないといけないかと思ったけど、大会会場にはたくさんの屋台が出ていた。たこ焼きや、ヤキソバや、イカ焼きや、お好み焼きや……ん? 焼きものばっかりだな。
僕らは屋台をまわって食べ歩き。うん。あれもこれも美味い。
「兄ちゃーん。僕、モロコシも食べたーい」
「よし。食おう」
「ああ、豚汁もある〜」
「うまいなぁ」
「天むすもいいねぇ」
「デカい海老天だなぁ」
「あっ、アジも遠慮なく、どんどん食べてね」
「ありがとう!」
さんざん買い食いしたあとだ。ワイワイにぎあう人ごみのなかで、ささやきあう声が聞こえた。通りすがりの誰かのようだ。
「……ほんとうか? 兄上が?」
「セイラさまがいなくなったとき、屋敷に不審な男たちが……それがどうやら…………さまの……」
「それで、セイラさまは今、どこに?」
「それはまだ……」
僕はかえりみた。
やっぱり。一人はタツロウだ。もう一人は、アレだ。この前、餃子の玉将のなかで気になる会話をしてた男。そうか。悪い人じゃなかったんだ。タツロウ側ってことは、悪事にからんでるなんて絶対にない。
けど、気になるな。
今の話だと、セイラが行方不明になってる?
僕はトトトっと走って彼らに近づく。
「あの、タツロウさん」
二人は急に黙りこんだ。
ふりかえったとき、タツロウは微笑を作ってたけど、心なし瞳が暗い。
「セイラ姫がさらわれたんですか?」
つれの男が一歩足をふみだしてくる。それをタツロウが押さえた。
「なんのことかな。ああ、君はこの前の」
「かーくんです。じつは僕、ヤマトに来る前に、セイラ姫を見かけたんですよね。カゴに乗せられて、でも意識がないみたいでした」
タツロウはつれの男と目を見かわす。
「それは、どこで?」
「ゲンカンです。カゴは街を出て北のほうに向かっていきました」
すると、つれの男がまた凄んでくる。長身で褐色の肌のイケメン。日本人離れした彫りの深い顔立ちだ。
僕は気づいた。
「あっ、マルちゃんだ」
例のシリーズに出てくるマルコシアスだ。正体は翼ある狼の姿の魔王。魔王だけど、僕の話のなかでは一途で誠実。龍郎とも信頼関係にある。
「なぜ、私の名がわかった?」
「えっ? えーと……キヨミンさんに聞いたから」
この世界には、僕の書いた小説が平行世界として存在してるんだと言っても、たぶん信じてくれない。
思ったとおりだ。マルコシアスの顔つきがやわらいだ。
「なるほど。それでセイラさまのこともご存じだったのか」
「はい。そうです」
「その話、詳しく聞かせてくれないか。こっちへ来てくれ」
僕は猛たちと離れて、一人歩いていく。
案内されたのは王宮近くの大きな屋敷だ。この前、袋小路でマルちゃんを見失った近くの建物。明治風の洋館だ。豪邸だなぁ。そうか。ここではタツロウのお父さんが将軍だった。
一階の角部屋がタツロウの部屋。
そこで僕はゲンカンで見たことを一部始終語った。
「カゴに乗せられていた姫君は、間違いなくこのおかただったか?」
タツロウが机のひきだしから、小さな肖像画をとりだした。青い振袖を着た天女のような美女が微笑んでいる。
「間違いないです。この人です」
「そうか……ゲンカンから北へ」
なぜ、誰にさらわれたのか、タツロウには心あたりがあるように見えた。
「兄ちゃ〜ん。勝ったよー」
「おう。よくやったな」
「今日は何戦するんだろうね?」
「午後からもう一試合くらいじゃないか」
ちょうどお日さまが正中だ。お昼ごはんだね。
街なかまで帰らないといけないかと思ったけど、大会会場にはたくさんの屋台が出ていた。たこ焼きや、ヤキソバや、イカ焼きや、お好み焼きや……ん? 焼きものばっかりだな。
僕らは屋台をまわって食べ歩き。うん。あれもこれも美味い。
「兄ちゃーん。僕、モロコシも食べたーい」
「よし。食おう」
「ああ、豚汁もある〜」
「うまいなぁ」
「天むすもいいねぇ」
「デカい海老天だなぁ」
「あっ、アジも遠慮なく、どんどん食べてね」
「ありがとう!」
さんざん買い食いしたあとだ。ワイワイにぎあう人ごみのなかで、ささやきあう声が聞こえた。通りすがりの誰かのようだ。
「……ほんとうか? 兄上が?」
「セイラさまがいなくなったとき、屋敷に不審な男たちが……それがどうやら…………さまの……」
「それで、セイラさまは今、どこに?」
「それはまだ……」
僕はかえりみた。
やっぱり。一人はタツロウだ。もう一人は、アレだ。この前、餃子の玉将のなかで気になる会話をしてた男。そうか。悪い人じゃなかったんだ。タツロウ側ってことは、悪事にからんでるなんて絶対にない。
けど、気になるな。
今の話だと、セイラが行方不明になってる?
僕はトトトっと走って彼らに近づく。
「あの、タツロウさん」
二人は急に黙りこんだ。
ふりかえったとき、タツロウは微笑を作ってたけど、心なし瞳が暗い。
「セイラ姫がさらわれたんですか?」
つれの男が一歩足をふみだしてくる。それをタツロウが押さえた。
「なんのことかな。ああ、君はこの前の」
「かーくんです。じつは僕、ヤマトに来る前に、セイラ姫を見かけたんですよね。カゴに乗せられて、でも意識がないみたいでした」
タツロウはつれの男と目を見かわす。
「それは、どこで?」
「ゲンカンです。カゴは街を出て北のほうに向かっていきました」
すると、つれの男がまた凄んでくる。長身で褐色の肌のイケメン。日本人離れした彫りの深い顔立ちだ。
僕は気づいた。
「あっ、マルちゃんだ」
例のシリーズに出てくるマルコシアスだ。正体は翼ある狼の姿の魔王。魔王だけど、僕の話のなかでは一途で誠実。龍郎とも信頼関係にある。
「なぜ、私の名がわかった?」
「えっ? えーと……キヨミンさんに聞いたから」
この世界には、僕の書いた小説が平行世界として存在してるんだと言っても、たぶん信じてくれない。
思ったとおりだ。マルコシアスの顔つきがやわらいだ。
「なるほど。それでセイラさまのこともご存じだったのか」
「はい。そうです」
「その話、詳しく聞かせてくれないか。こっちへ来てくれ」
僕は猛たちと離れて、一人歩いていく。
案内されたのは王宮近くの大きな屋敷だ。この前、袋小路でマルちゃんを見失った近くの建物。明治風の洋館だ。豪邸だなぁ。そうか。ここではタツロウのお父さんが将軍だった。
一階の角部屋がタツロウの部屋。
そこで僕はゲンカンで見たことを一部始終語った。
「カゴに乗せられていた姫君は、間違いなくこのおかただったか?」
タツロウが机のひきだしから、小さな肖像画をとりだした。青い振袖を着た天女のような美女が微笑んでいる。
「間違いないです。この人です」
「そうか……ゲンカンから北へ」
なぜ、誰にさらわれたのか、タツロウには心あたりがあるように見えた。