第253話 ドキドキ脱出行!
文字数 1,523文字
「ロラン。じつは、アンドーくんの隠れ身って技、大暗殺者になったら覚えるみたいなんだ。大暗殺者のツボは持ってる。誰か覚えたら、転職してすぐに隠れ身が使える……かも?」
まあ、望みは薄いけどねぇ。たいていは数十から百回ていど戦闘勝利しないとダメだ。職業経験値がたまってからってことだね。
「ああっ、ちょっと待った!」
誰だ? 急に大声出すのは? ランスか。
「大暗殺者? それって、弓聖って個人職の就労条件なんだよ。ほら、おれ、後衛から魔法攻撃するために、大弓使いってやつになったろ? 弓聖はその上の個人職だ。大弓使いと大暗殺者をマスターしてないとなれない」
「そうなんだ」
そういえば、大弓使いのツボを渡したとき、ランスはまず暗殺者に転職したもんな。あれって、大弓使いの条件だったからか。
「大弓使いじゃ、階級的には上位職くらいの強さなんだ。もっと魔法攻撃をいかすためには、弓聖になったほうがいいと思ってた。おれにそのツボくれないか!」
魔法攻撃に貪欲なランス。
ほんとにアレルギーを治したいだけなんだろうか? そんなに切実なの? 人間アレルギー? どんだけ、さびしんぼ?
「まあ、いいよ。すぐに隠れ身おぼえるって保証はないけど、どうせなら、その後も職業ツリーで役立てる人が使ったほうが。ね? ロラン」
「そうですね」
隠れ身のできる魔法使い。
トドメを刺せる魔法使い。
消える魔法使い……イリュージョンだ。
というわけで、大暗殺者のツボをランスに渡した。馬車のなかには、まだスズランがいる。お祈りしてもらったけど、転職したランスは首をふる。
「やっぱり、すぐにはムリみたいだ。使える特技のなかに、隠れ身ってのがない」
ダメだったか。
だとしたら、ここで全員にオーク転職してもらうか?
「ロラン!」
「イヤです!」
「スズランは……?」
「イヤです!」
だよねぇ。絶世の美女と絶世の美青年に、ブタっ鼻はキツイか。可愛いと思うんだけどな。
「あっ、じゃあ、クルウさんの馬車にスペースがありませんか? ロランとスズランだけ、そっちに乗せてもらえば、あとはブタさんとモンスターなんで」
僕はお願いしてみたものの、クルウはすまなさそうに謝罪する。
「定員いっぱいです。が、スズランさんのみなら、NPCとして乗せられますね」
スズランは蘭さんにはすごくなついてる。だから、「わたしもお兄さまと運命をともにします! ブタっ鼻がなんですか!」と言うんだろうと思ってた。
次の瞬間、すかさず、スズランはクルウ隊の馬車へとびこんだ。
「ごめんなさい! お兄さま。わたしがいると足手まといになるので、こちらの馬車で行かせてもらいます」
「スズラン……」
ああ、蘭さん、スズランに裏切られた。すごい悲壮な顔。
そして、絶望に打ちひしがれる蘭さんの前で、アンドーくんはクルウさんたちの軍用馬車をつれて行ってしまった。
「ま、まあ、ロラン。スズランとは、すぐに外で合流できるよ。じゃあ、僕らも行こうか。ロランは馬車に入ってて。外を僕やトーマスやランスでかためとけば、どこからどう見てもオークの一家だからね!」
「……はい。たのみます」
ガラガラと馬車は階段をのぼっていった。ホールに出ると、あの兵隊さんがよってくる。
「なんだ? 坊主。まだいたのか? さっきと馬車が違うじゃないか?」
「えっ? そんなことないですよ?」
「いやいや。さっきのは猫がひいてた」
「猫が車をひっぱるわけないでしょ? 馬車は馬がひくから馬車って言うんです」
「う、む、まあ、そうかな?」
よ、よし。なんとか、ごまかせそうだ。
ところが、そのときだ。
兵隊さん、やっぱり僕らを呼びとめる。もう、なんなの?
なんで僕らにかまうの? やめてェー。