第199話 ツボの出どころ
文字数 1,369文字
ゴールド会員限定の高級ショップに行ってみたけど、今回めぼしい武器防具はなかった。魔法書と職業のツボをいくつか買っただけだ。
「本日は『風神の嘆き〜』がございます。いかがなさいますか?」
風神の? それはどっかで聞いたことあるな。
「魔法ですよね?」
「はい。この魔法書はワレスさまの——」
「はーい、はいはい! 買いましたー!」
「風神の嘆きは吹きあがる竜巻により、対象の守りをすべてはぎとるという恐ろしい技です。2ターンのあいだ、敵全体の防御力、魔法防御力、ブレス防御力をゼロにします。無敵効果、バリアが入っている場合はかきけします」
「補助魔法なんだ!」
ワレスさんの魔法、攻撃じゃなくてもスゴイ効果だ。
「ください」
「はい。十億円になります。あれやこれや、もろもろで十五億円でございます」
ああ……そうだった。ここって、そういうとこだったぁー。ボッタクリバー。
よく見たら、接客してくれるのも、この前のワンレンのお姉さんだ。今日のスーツもキマってる。
「ほかには何かないですか?」
「庭師のツボなどいかがですか?」
「ください」
「木属性や水属性のモンスターに強い職業です。先日、ご購入いただいた小鳥師のツボと、羊飼いのツボもございますよ」
「羊飼い! ぜひ、ください! 小鳥もください!」
ほかはわかんないけど、羊飼いの特技は毛刈りだけでも充分、使える。
「では、あれやこれやで十億五千万円でございます」
「はい。もう、いくらでもいいです」
お金を払って出ていこうとしたときだ。ちょっと気になったので、僕は聞いてみた。
「こういう職業のツボって、名人が死ぬときに魂を遺すんですよね?」
「さようですね」
「ということは、たいてい遺族が魂を受け継ぐと思うんだけど、そういう人たちがツボを売りに来るの?」
「ツボの出どころのことでございますね?」
「うん、そう」
「それでしたら、ヒノクニのどこかに、名人たちの魂をたくさん採集できるダンジョンがあると耳にしております」
「へえ。そうなんだ」
ダンジョンで魂を……どういう状況なんだろう? モンスターは戦うと魂落とすことあるけどさ。たぶん、そういうモンスターは戦闘前に、もともと死んでる……。
死んで……? やな予感。
「はい。名人墓場というダンジョンです」
「ギャアアー! 出たー! オバケー!」
やっぱり、やっぱり、そうか。すでに死んだ人たちの魂がさまよう場所なんだ。こ、怖いよ。
「へえ。かーくん。いいじゃないか。めずらしい職業の名人と出会えるかもしれないぞ。たくさん魂、集めたいなぁ。そこ、行ってみよう」
って、猛。いらないこと言うなぁ。
「あ、いいですね。個人職はツボを使わないとなれないし、毛刈りや反射カウンターみたいな、すごく便利な技がまだまだあるかもしれません。行ってみましょう」と、蘭さんまで言いだす。
「うう……」
「それでしたら、雑貨屋さんで新商品として無職のツボを売りに出されております。そちらもお求めになってはいかがですか?」って、店員さんまで。
「よし。どうせ、シャケ探しにヒノクニには行くつもりだったろ? レベリングかねて、その名人墓場に行ってみよう」
ああっ、猛。勝手に決めないでよねぇ。
た、たしかに珍しいツボはたくさん欲しいけどさぁ。
ぐすん。明日から、オバケまみれ。変なこと聞かなきゃよかったなぁ……。