第216話 暗殺者スリーピング戦3
文字数 1,637文字
蘭さんの素早さは今、マスターボーナスをふくめて、10902だ。流星の腕輪をしてるから、約二万二千。
なのに一回しか行動できないって?
「ちょっと待ってよ。スリーピングって、そんなに素早いのかな?」
あわてて、僕は数値を見なおした。かわされたってことは、器用さも高いってことか?
すると、驚異のステータスがそこにあった。
暗殺者スリーピング(ヴァンパイア)
レベル50
HP12536、MP5222、力15012、体力10907、知力10869、素早さ25344、器用さ20260、幸運30871
えっ? 何コレ?
「めちゃめちゃ強い」
「異常だな」
「まさか、これから出てくるボスって、全部こんなの?」
「いや、待て、かーくん」
猛が目を細めて、スリーピングを凝視する。
「今の数値の下に、うっすら別の数字が見える」
「えっ? ほんと?」
目をこらすと、たしかにペン字の下の鉛筆書きのように、薄い数字がぼやけて見える。
「うーん。ぼやけたほうだと、HPは6000くらい。その他の数値もだいたい三桁。素早さは350……くらいじゃないの?」
猛は考えこんだ。
「吸血のせいだ。アイツがこれまでに吸った数値で、カサ増しされてるんだよ。本来は薄い数字のほうが正しい数値なんだ」
「素早さが二万五千だなんて、ヤバイよ。こっちで一番素早い蘭さんでも、一回しか動けない」
「ああ。だけど、向こうだって、そう何度も行動できるわけじゃない。かーくん、素早さあげられるだけ、あげとけ」
「うん」
そうだ。百倍まで素早さあがるようになったから……えーと、七万五千まで僕の素早さあがるぞ! 三回動ける。
もう必死でパタパタ。
「さっき、蘭さんがかわされたよね。アイツの器用さが高いからだ」
「器用さが同じていどなら、ふつうにあたると思う」
スリーピングの器用さ30000だもんね。猛でさえ五千ていどだ。これは通常攻撃も魔法もブレスもかわされるレベル。
「封じ噛みで吸血の効果を封じられないかな?」
「すでに吸収したものはムリだろうな。特技じたいを封じることはできるかもだけどな。数値は本人と一体化してるだろう」
「……だよね」
強化魔法や特技の効果をかきけす虹のオーロラなんかも効かないだろうな。
「数値じたいを減らすしかないか」
「よし。かーくん。つまみ食いだ!」
「だね! それしかない」
ヴァンパイアっていうのは職業らしい。つまり、吸血は職業特技だ。僕らのつまみ食いは生来特技だから、こっちのほうが優先される。
「つまみ食い、僕もランク5になったもんね。任意の数値を減らせるよ」
「まず素早さで、次に器用さ、体力、力、HPってとこかなぁ」
「いきなりHPは?」
「おれは一回、かーくんは三回。合計四回しか動けない。五分の一ずつ奪うんじゃ、HP0まで食いつくせないよ。だから素早さを奪って、まず動きを封じるんだ」
「そっか」
スリーピングの吸血量は十分の一ずつだ。一回しか動けないのなら、こっちがそれ以上の数値を奪えば、なんの問題もないのだ。
「ロラン。みんな、ここはしばらく、僕と猛に任せてほしいんだ。あいつの吸血はパーティーに効果がおよぶ。前衛にいたら、みんなが犠牲になるから」
まあ、僕らのパーティーはさ。なんなら最後の手段は僕の小説を書くがあるわけだけどね。
「わかりました。じゃあ、僕は馬車に入ります」
「では、私も」
蘭さんとバランは自動発動系の技が出ただけだ。自分の行動回数を使ってないので、なかへ入ることができる。
「ええ? じゃあ、やっぱり、おれも入ってるよ」
アジもあとを追った。
タツロウは悪魔に強いはずだけど、今しも扉の前ですったもんだしてるセイラとお兄さんが気になってしかたないようだ。正直、こっちの戦いに身が入ってない。
「あの、タツロウさんはセイラさんを助けに行ってください」
「そうか? すまない!」
タツロウ、走っていった。
階段前のスリーピングを、サッととびこえていく。
さあ、これで前にいるのは僕と猛だけだ。行くぞ。