第103話 ヤマト街ぶら〜
文字数 1,686文字
さて、街へくりだしたけど、それにしても蘭さんたち遅いなぁ。
いちおう預かりボックスのなかに、僕らがヤマトに到着したって手紙は入れといたけどさ。
ギルドのなかの酒場はほんとに小さいんで、僕らは外へ出ていった。いいねぇ。大きな街は料理店もたくさんあるしね。
「わあっ、猛! 餃子の玉将あるよ! あれ? 王将じゃない。タマ将だ」
「コンプライアンス的なもんだろ。タマ将でもいいよ。食おう」
「中華もいいね〜」
餃子の玉将で僕らがランチタイムを満喫してたときだ。ちょっと離れたテーブル席で、何やら男たちが話していた。
「……見つかったか?」
「ダメだ。どこにも」
「このままでは……」
「国の未来がかかってるんだぞ」
うーん。なんか陰謀? 陰謀の匂い?
「ねえ、猛……」
「うん。そうだな」
「どうする?」
「ああ、もう出てってしまうぞ」
「僕、ちょっとつけてくる」
「気をつけろよ。餃子と唐揚げは兄ちゃんに任せとけ」
「…………」
いや、そっちは僕が帰るまでとっといてほしい。
急いで、あとをつけていく。
男たちは細い道を早足で移動していく。そのうち、見失ってしまった。
「うーん。袋小路か。しょうがないなぁ」
タマ将に戻って昼ごはんだ。
うん? 近くに王宮かな? すごく立派な建物があるなぁ。広場にはたくさんの人が集まってるぞ。
「今年こそはおれさまが優秀してやるぞ」
「いやいや、おれだ」
「あらあら。ひよっこの男どもはひっこんでな。あたしが勝つ」
みんな参加者かぁ。
うーん。ここにも蘭さんはいないなぁ。
うん? だけど、僕は思いがけない人を見つけた。
黒い軍服。白い手袋。金ボタン。肩章や腕章には白いラインと金の星。腰に日本刀をさげて、見るからに軍人なんだけど、顔立ちは優しい。そしてイケメン。
もうひとめで誰かわかった。イメージどおりだ。
「わあっ、タツロウさんですよね? モトヤナギタツロウ。青龍の守護者だったっけ?」
これこれ。これが僕の三大シリーズの一つ『宇宙は青蘭の夢をみる』の主役、本柳龍郎。カッコイイなぁ。見るからに穏やかで、さわやかな好青年。
「わあっ、こんなところで会えるなんて。サインしてもらおうかなぁ。あっ、色紙がない。せめて握手でも」
「近所の子ではないね。旅人かな? 今は武闘大会に出場する冒険者が多いから、気をつけるんだよ。なかには気の荒いのもいるからね」
僕の手をにぎるタツロウのそばに、ササッと軍服の男がよってくる。何やら耳打ちするので、「わかった。すぐ行く」と答えて、タツロウは僕の手を離した。
「じゃあね。早くお父さんとお母さんのところに帰るんだよ」
手をふって去っていく。
清々しい。けど、僕を何歳だと思ったんだろう?
さて、じゃ、タマ将に帰ろう〜と思ったら、今度は広場から出てきた別の知りあいに出会ってしまった。会いたくなかったなぁ。
「ふん。きさまか。小僧はお呼びじゃないぞ。優秀するのは、わしらだからな」
「あら、坊や。あなたも大会に出るのね?」
小太りのダルトさんと、その相棒の女の人キルミンさんだ。あっ、キヨミンさんと名前が一文字違いだ。あはは。
なんか昔はいい腕前の傭兵だったらしいんだけど、今は昔の栄光にすがったおじさんと、それを支えるキルミンさん。前にたまたまいっしょに戦うことになったとき、ほんとに迷惑した。
この人たちも出場するのかぁ。
「あ、はい。どうも。それじゃ」
「まあ、待て。小僧。おまえには手を貸してもらったからな。いい情報をやろう」
手を貸してどころか、一度めはあんたのせいで、こっちが全滅しかけたんだけど?
二回めは全滅してたあんたたちを街までつれ帰ってあげたよね? 僕、命の恩人だと思う。
「……なんでしょう?」
まあ、おとなしく聞いてみると、
「じつはだな。今回の大会には、魔王軍の四天王が参戦してくるらしい」
ドキッ。まさか、兄ちゃんのこと?——ではなかった。
「おそらく名や姿は変えてくるだろうがな。ゴドバが自分の腕をとりもどしに来る」
ああ、やっぱり、アレってそういう作戦なんだ。おびきだして、やっつけるつもりなんだね。ほんと波乱ぶくみだなぁ。