第94話 難破……してるの?
文字数 1,696文字
チャラララッチャチャー!
経験値248200、63050円手に入れた。
グレート大海賊キャプテンは宝箱を落とした。オークの紋章3を手に入れた。
ミニゴーレムたちは宝箱を落とした。ふつうの歯車1201個を手に入れた。
ふつうの歯車か。またミニコを強くできるな。そういえば、前にギガゴーレムが落とした巨大な歯車もかじってたから、数値あがってるだろうな。
今回も経験値が膨大だったんで、また、みんなレベルがあがった。僕も2アップした。時間があるときに、じっくりそれも確認しないと。
それより問題は、今、この船を動かしてるの、誰なんだろう?
「ねえ、兄ちゃん。まわりからモンスターの気配なくなったね?」
「ああ。船がダンジョンじゃなくなった」
「だよね」
海産物祭りは終わりか。焼き豚祭りしたからいいんだけどさ。
「じゃあさ、この船、誰が操縦してるんだと思う?」
「船員は……モンスターだったよな」
「うん。もしかして、漂ってる?」
「漂ってるかもな」
僕らは来たときと反対側にある階段をあがっていった。地下二階、地下一階、甲板に出ると、操舵室が目の前だ。
「ああーッ!」
やっぱり、誰もいない。
この船は潮流に流されてる。
「ヤバイ。船員が消えたから、船の舵とる人がいない! どうするのっ? 難破しちゃうよ!」
「…………」
あれ? なんだろ? 猛のこのドヤ顔?
「かーくん。忘れてないか?」
「何を?」
「兄ちゃん、船舶免許持ってるぞ?」
「ああー! そうだった。兄ちゃーん!」
やっぱり、兄ちゃんといると頼もしいなぁ。
僕だけだったら、三百人の子どもかかえて路頭に迷ってた。いや、道端じゃないから、波間に漂ってたね。あげくに見知らぬ無人島に打ちあげられたりして……。
「じゃあ、兄ちゃん。船の操縦はたのんだよ?」
「いいけど、兄ちゃん、腹へったなぁ」
「さっき豚肉食ったよね?」
「いや、あれ、食えるのは数値だけだから。ほんとにモンスターの体食うわけじゃないからな?」
「サザエのツボ焼きやウツボの天ぷらでよければあるよ。お魚さんたちと戦闘したら、必ずドロップしたから」
「いいなぁ。兄ちゃん、宝箱もほとんど落ちてこないんだよな」
ふふふ。やっぱり、僕の幸運数値のおかげか。宝箱は嬉しいよね。ミニコもそのおかげで、あっというまに強くなれたし。
「はい。じゃあ、ツボ焼きと天ぷら……天……」
子どもたちが馬車のなかから、ものすっごく羨ましそうに見てる。全員ぶん……あるかな?
それから丸二日、僕らは船で大海原をさまよった。グレート大海賊キャプテンがどこに向かってたのか知らないけど、かなり北東に流されていたのだ。
「ここからだと、近いのはヒノクニだな。ボイクドに帰るより早く街につけるよ」と、猛が言うので、このさい、しょうがない。転移魔法の拠点さえできれば、ボイクドにはいつでも帰れるからね。
船旅のあいだは船倉に保管されていた水や食料をわけあった。
それに、キヨミンさんのくれたスイーツがめちゃくちゃ優れものだった。割っても割っても、もとの一枚はなくならない魔法みたいなクッキーがあったからだ。しかも驚異的に美味い。
あとはたまに甲板で遭遇する海産物モンスターと戦って、ツボ焼きや天ぷらを手に入れた。このためのツボ焼きだったんだろうか。空腹を満たす以外に、とくに効果はないんだよね。
そして、ようやく今日、陸地が見えてきた。
あれがヒノクニか。まだ街の風景までは見えないけど、新しい国。ワクワクする。
「猛! あれ、街じゃない?」
「ああ。そうだな。港がある」
「よかったー。これでやっと、子どもたちも家に帰せるね」
「そうだな」
異国の地の港へ入っていく船。湾になった自然な感じの港だ。
「あれ、この国」
「そうだな」
僕ら兄弟なんで、ときどき考えがシンクロする。
ヒノクニの風景はどことなく、なつかしい。和風って言うのかな。現代の日本っていうより、明治か大正くらいの感じがする。
「子どもたちィー、港についたよ。もう、おうちに帰れるからね」
わいわいとさわぐ子どもたち。
バンザイするミニゴーレム軍団。
よかった。なんとか無事に港に碇泊できたよ。