第160話 準決勝の日の朝
文字数 1,534文字
翌朝。
今日は準決勝だ。
午前中は蘭さんたちとゴライが戦う。試合も見たかったけど、お姫様の救出のほうが大事だ。あんなダンジョン化した屋敷にいたら危険だからね。
午前中いっぱい、僕らはがんばった。別荘……広いなぁ。終わりが見えない。ムダにまがりくねってる。
「ああ、もう十一時半だ。さすがに帰らないと。昼ごはん食べて、試合だよ」
「大丈夫。もう七十七棟まで来た。あと二十二棟だ。試合のあとに来れば、晩飯までには奥までたどりつくよ」
「そうだね」
午前中だけで、僕は山びこをマスターした。けど、就労中の補正ボーナスがいい。HPと体力が20%、力が10%もあがる。試合もこのまま、山びこで行こう。
猛は勇者を、アジは賢者を、たまりんは大僧侶をマスターした。ぽよちゃんには、この前手に入れた子白虎のツボを使ってマスターしてもらった。
ネコりんたちはレベルが30を超えたとき、自然に職業が進化して、白猫のトイは子白虎、それ以外の猫たちは化け猫になった。見ためは小さい猫なんだけど。
「お金も銀行に預けたし、昼ご飯も食べた。これで心置きなく試合にのぞめるね」
「ビーツ隊だろ? あそこはバランスいいからな。パーティー戦だと、いっきに戦力増してくるぞ」
「アジは後衛になってもらったほうがいいかなぁ……」
すると、猛は考えた。
「いや、おれが守るから、アジには前衛になってもらおう。たまりんは後衛援護ができるし、魔法も多彩だ。ハープひいとくだけで強力な補助効果がたくさん得られる」
「そうだね」
「かーくんは白虎の守護石、まだつけてるよな?」
「うん」
「神獣の気は魔法、物理の順じゃないと相手の攻撃がきかない。気づかれるまでの時間かせぎになる」
「だね」
「ぽよちゃんは、はねるで素早さをあげたあと、ひたすらテンションをためてくれ。アルテマハイテンションになったら、おれたちと連携して、敵を一人ずつ確実に沈める。まずは蘇生魔法を使う僧侶だな」
「キュイ!」
はぁ、ドキドキしてきたなぁ。パーティー戦って、一対一より攻撃のバリエーションが増えて、何が起こるか予測がつかない。
「おれは何をしたらいいの?」と、アジが首をかしげる。
「アジは賢者をおぼえたから、魔法を中心に動いてほしい。とくに回復だな。おれとかーくんが攻撃に専念するには、回復役が別にいたほうがいいんだ。パーティー全体のHPをつねに気にかけてくれ。とくに、ぽよちゃんはHPが低いから、ほんのちょっとのかすり傷でも治してもらえると助かるな」
「わかった。誰もケガしてなかったら?」
「えーと、学者の特技って、算術と速読だったっけ?」
「うん」
「特技はMPを使用しない。あれ、たしか補助魔法の効果だったから、それを使って支援してくれ」
「わかった」
猛ばっかり、いいとこ見せてるな。僕も指示しとこう。
「じゃあ、ミニコはぽよちゃんを守ってよ」
「ミ〜」
作戦会議終了だ。
これで勝てればいいな。
数値だけで言えば、猛一人でパーティーに勝てそうなものだけど、わかんないからな。
ところがだ。ドキドキのワクワクもしたりしつつ、広場に行ったときだ。
なんか、さわがしい。
「どうしたんだろう?」
「変だな。何かあったかな?」
大会関係者が右往左往してる。
午前中は蘭さんとゴライパーティーの試合だったはず……。
試合が三時間も続いてるとは思えない。不慮の事態だろうか? とたんに不安になる。
僕はオロオロしてる人のなかに、アンドーくんを見つけた。
「アンドーくん。どうかしたの?」
アンドーくんは見るからにこわばった表情だ。聞く前からイヤな予感がする。
「かーくん。大変だわ。ロランが今朝になって、急に姿が見えらんやになった」
「えっ?」
それは、まさか、さらわれたということか?