第305話 平和のもどった島

文字数 1,672文字



 ワアワアと歓呼があがる。
 バランはすべての生き物に迎えられて、精霊たちの王として、この島を統べることになった。

 いいんだけどね。
 チェンジリングが決め手だったのはたしかだし。
 ちょっと期待しちゃっただけさぁ。ふっ。

 とにかく、これで島には平和が戻った。

 ワレスさんもやってきて告げる。
「オークが魔王軍から脱退するなら、人間もこの島を襲うことはない。たがいに不可侵条約をかわそう」

 ノーム族には村長さんが、ぽよぽよたちには、ぽよちゃんがいるんだけど、オークたちの代表は誰だろう。
 ん? オークたちの目が僕を見てる。

「やっぱり、そういうことはオークキングが決めるべきかと、おばさん思うんです。ブヒ」
「オークキングって誰なの? ブヒ」
「三つの紋章をそろえし者こそ、我らの王です。ブヒッ!」
「三つの紋章……ブヒッ」

 ミャーコがペペペっとオークの紋章1、2、3を吐きだす。
 ま、まさか、三つの紋章って……オークキングって……?

「こ、これ?」
「そうです。ブヒ! この紋章を持つあなたさまこそ、我らの王です。ブヒッ!」
「ええーッ? 僕なの? ブヒッ!」

 ハッ! ブヒッて言ってた!
 こ、これがオークの紋章の力なのかッ?
 たしかにスズランにお祈りしてもらうと、僕はオークキングに転職することができた。
 う、うーん。嬉しいような悲しいような……。

 クスクス笑いながら、蘭さんが宣言する。
「では、ここに三種族同盟締結ですね! 僕ら人間族も入れたら、四種族同盟かな?」
「うーん。僕、人間なんだけど……」

 ワレスさんも笑ってる。僕がブタさんになると、なんでみんな笑うんだろ? いや、もちろん、おかしいとは思うけどね。ものすごく微笑ましげな顔になる。

「では、不可侵条約に続いて、友好条約はどうだ? 友好の証にオーク城を修復してやろう」

 ワレスさん、時間をまきもどす魔法を使ったんだろうな。片手をかるくあげて呪文を唱えると、壊滅的な打撃を受けていた城がまたたくまに、もとに戻っていく。

「うわっ。スゴイ!」
「もっと時間が経過していたら、おれの魔法でもなおせなかったが」

 その夜、僕らは宴をひらいた。ふかしたトウモロコシや、ぽよぽよ草や、素朴なノームたちのスープや、キヨミンさんの作ってくれたスイーツでパーティーだ。

 翌朝。

「では、おれはさきに帰る。報告もしなければならないし、ホムラに船の通った航路を分析させて、この島への安定したルートを確立させなければならないからな」と、ワレスさんが言った。

「僕らはノーム村で買い物するので、もう少し残りたいんですが、船がないと帰れませんよね?」
「小型のボートをオーク城地下の港に残しておく。それに乗って帰ってきてくれ」
「わかりました」

 ワレスさんやクルウたちの隊は、ボイクド城に帰ることになった。廃墟の城で捕まっていた人たちも、それぞれの家に帰してあげないといけないもんね。

 手をふって見送ったけど、まさか、そのあと、あんなことになるなんて、このときは予想もしてなかった。

 ノーム村の精霊石屋さんで買いしめたり、たのんであった石を加工の名人から受けとったり、僕らはひさしぶりの余暇を楽しんでいた。
 ぽよちゃんも平原で仲間たちと交流しながら、新鮮なぽよぽよ草を思うぞんぶん食べていたようだ。

「なあ、かーくん」
「うん? 何? 猛」
「兄ちゃん、そろそろ一回、魔界に帰ろうかと思うんだよ」
「えッ?」
「ゴドバがやっつけられたから、さすがに魔王もあわててるだろ。緊急招集かかるんじゃないかって思うんだ」
「そっか……」

 兄ちゃんが行っちゃうなんて、さみしいなぁ。

「また会えるよね?」
「もちろんだ」
「危なくなったら、すぐに逃げだしてね?」
「ああ。限界まで情報収集したら、脱走してくる」
「うん。じゃあ、これ、餞別」

 僕はタケルに百億円金貨を十枚渡してやった。何を買いたいのか知らないけどさ。猛、貧乏だから。

「元気でねぇ」
「かーくんもな。ムチャするんじゃないぞ?」
「うん」

 兄ちゃんは言い残すと、翼をひろげて飛んでいった。
 ああ……行っちゃった。くすん。
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