第159話 勇者の条件
文字数 1,630文字
猛のステータス画面から職業ツリーをながめる。
たしかに、就労前で色は薄いけど、勇者っていうのがある。条件は『選ばれし者、または基本職すべてと武人、騎士、賢者をマスターする』と記されていた。
「あッ、僕も今日、騎士と賢者おぼえた。なれるかも! 神官さま。僕も勇者にしてください!」
「よいでしょう。ただし、順番です。順番。しばらく待ちなさい」
「はい!」
待つよ。勇者になれるんなら、数分くらい待つよ。
えへへ。勇者かぁ。僕もついに勇者。
蘭さんみたいに、虹のオーロラやブレイブツイストを使えるように。なんか僕にもイベントで特別な力を授かったりしないかなぁ?
「では、タケルよ。勇者の気持ちになって祈りなさい」
「はい」
チャラ〜ラン。
「タケルよ。今日からあなたは勇者です」
いいなぁ。猛が輝いて見える。
「じゃあ、次、僕ね! 神官さま。勇者になりたいです!」
僕は勢いこんで、お願いしたんだけど……。
「あれ? 僕、勇者になれない」
職業ツリーを見ても、勇者って書いてない。変だな。
「かーくん。まだ踊り子になってないぞ? だからだよ」
「ああ。そうだった。踊り子なってなかったかぁ。じゃあ、踊り子から。お願いします。神官さま」
「では、かーくんよ。踊り子の気持ちになって祈りなさい」
踊り子の気持ちかぁ。
…………踊り子。
………………あれ? なんにも浮かんでこない。
……………………えっと?
もしかして、僕って……。
恐る恐る職業ツリーをもう一度、見なおす。やっぱりだ。基本職のページに、踊り子の欄がない。
「……兄ちゃん。僕、踊り子になれない」
猛は哀れみの目で僕を見た。ぽんっと肩をたたいてつぶやく。
「ドンマイ」
ウキーッ! ドンマイ、じゃないよ。
「ズルイ! 兄ちゃんばっかズルイー! 兄弟なのに、兄ちゃんばっかり勇者ズルイー!」
「しょうがないだろ? かーくん、踊り子になれないんだから」
「くうッ」
人によって、なれない職業があるのは知ってた。でもこれまで、たいていの職業につけたから、自分にもなれないものがあるなんて考えてもいなかった。てっきり、僕もワレスさんみたいに、なんにでもなれる万能型なんだと思ってたのに。
「ちぇー。僕ってダンスのセンスなかったんだ。まあ、地面に頭つけてクルクルまわったり、バク転連続三十回とか、できる気がしないけどさ」
「ははは。兄ちゃんも商人はツボ使ったからなぁ」
そうだった。猛やたまりんには商人のツボあげたんだった。
ああ、僕、商人の才能はあふれんばかりにあるんだけどなぁ。誰にでも向き不向きがある……。
「……あれ? ていうことは、僕、パリピにもなれない!」
「そうだなぁ。あれ、踊り子、遊び人、ニートだもんな」
ショックだ。そうか。
やっぱり、僕には札ビラを切って戦う、いやらしい戦法しかないのか。
「踊り子のツボってなかったかなぁ? ない。ないね。どっかで貰えないかなぁ?」
しょうがないなぁ。なれないものはなれないんだから、あきらめも肝心だ。
「いいよ、もう。じゃあ、武闘王にでもなろうかな。武闘王は剣の舞をおぼえるんだよね。剣の舞は全体攻撃だから……」
言いながら職業ツリーをながめた僕は、変なものに気づいた。
「あっ、僕、山びこになれる」
「えっ? 山びこ? かーくん、それ、モンスター職だぞ」
「そう言えば、前に子鹿を守る山びこから魂を受け継いだ!」
「いいなぁ。それレア職だぞ。山びこは魔法を自動復唱してくれる特技をおぼえるよ」
「そうなんだ! 神官さま。僕、山びこになります!」
「では、かーくんよ。山びこの気持ちになって祈りなさい」
山びこの気持ちか。
子鹿を守ってたよね。山のように大きくて、優しい心のモンスターだった。山の精霊っていうか。神聖な感じ。それで、デッカくて、デッカくて、デッカい!
チャラ〜ン、ラン。
「かーくんよ。今日からあなたは山びこです」
「はい。山びこですね!」
山びこの気持ちはすぐなれた。やっぱり向き不向きが……。