第83話 グレートマッドドクター戦4
文字数 1,945文字
敵ターン。
いきなり、グレートマッドドクターが叫んだ。
「死毒の霧ィー!」
グレートマッドドクターの口から、黒紫っぽいなかに毒々しい黄緑や赤さびみたいな色のマーブルになった濃霧が噴出された。
うわッ。汚い! ブタさんが吐いた霧、なんかイヤ!
「キャー! 不潔! ブタさんがゲロ吐きましたよ。僕、けがらわしいのは苦手です」
って叫んだのは、蘭さんだよ。僕じゃないからね。
「見ためですでにダメージ受けるよね!」
「ミー!」
右往左往する僕ら。
だけど、悲しいかな待機行動中は、自分の回避率内で敵の攻撃をよけることくらいしかできない。
グレートマッドドクターはまたまた怒り狂った。
「誰がゲロ吐いたじゃー! これは死毒の霧というれっきとしたブレス攻撃じゃわい。いいか? きさまたちは全員、ここで息絶えるのだー!」
むっ? たしかに……なんか苦しい。フラフラする。
僕は自分のHPをながめた。残り1になってる。さっきまで満タンだったのに。1000から1に? 1000が1?
「ロラン。僕のHP1だよ」
「あっ、僕もです」
「バーン……」
「私もですね」
「ミー……」
どうやら、前衛は全員、1だ。
「後衛は? たまりん、ぽよちゃん? みんな大丈夫?」
たずねると、元気のない返事が返ってくる。
「キュウ……」
「ゆら……り」
「わもダメだわ。後衛も全員、瀕死だない?」
「私は平気だな。ふえ子も無事だ」と言ったのはホムラ先生。NPCにまではダメージがおよばないのか。補欠要員だったせいかもしれないけど。
「ブッヒッヒ! どうだ。我が恐ろしさが理解できたか? 死毒の霧はHP最大値の高さに関係なく、毒耐性無視で必ず残りHP1にする究極の猛毒なのだー! 毒系最強の技をその身でとくと味わうがいい。ブヒッ。私をバカにしくさった罰だわい! しかも、死毒の霧はほかの毒ダメージと違い、HPが0になるまで効果が続く。次のターンの始めに、きさまらは全滅するのだー!」
うッ。それは回避できない。
「しかし、勇者よ。きさまだけはこのターン内に終わらせてやる。さぁ、ガーゴイル。攻撃するのだ。私をもっとも愚弄しおった勇者をまっさきに血祭りにあげてやれェー!」
長い口上だな。
コイツのあにきもそうだったけど、ナルシストで自己顕示欲がめちゃめちゃ高いからなぁ。ブタブタ言ったのがよっぽどシャクにさわったのか。
ていうか、なんでグレートマッドドクターは僕を見ながら命令してるんだ?
あっ、そうか。コイツら、なんでか知らないけど、僕を勇者だと勘違いしてたんだっけ。
えッ? まさか、じゃあ、狙われてるのって僕?
ギャーッ! やられるゥー!
と思ったんだけど、その瞬間だ。なんでかわからないけど、僕の体が勝手に動いた。
「えいっ!」
あっ? グレートマッドドクターをなぐろうとした僕の前にガーゴイルがとびでてきて、ポコンと頭部を殴打された。ガーゴイルは地に伏した。だよね。残りHP3だったもんね。
「えっと、何が起こったんだろう?」
蘭さんが首をひねる。
「今のカウンター攻撃じゃなかったですか?」
「カウンター? でも、武人や武闘家のカウンターって、職業特性だよね。転職したらなくなる特性」
たしかに武闘家はマスターしたけど、今はニートだ。まじめに働くニートだなぁ。だけど、カウンターは使えない。
「でもさ。カウンターって攻撃されたら発動するんだよね? さっきはガーゴイルの行動前じゃなかった?」
なんか、グレートマッドドクターを狙ってたのに、ガーゴイルが仲間を守ったみたいだった。それでカウンターは必中攻撃だから、まともにくらって倒れた、と。
「ということは、死毒の霧に反応して反撃したのか。変だなぁ。僕にそんな技、なかったはずなんだけどな」
「ミー」
ミニコが何か言いたそうだ。
「うむ。かーくん。君はさっき、水守からお守りをドロップされなかったかね? それだよ」と、ホムラ先生。
水守のお守りか。
そうだった。水、氷属性の攻撃を受けると自動で反撃する。でも、装備してないけど。カバンのなかに入れてるだけ。
「死毒の霧は水属性だ。そして、そのお守りは所持しているだけで効果が現れるタイプのものだね」
ええーッ? め、めちゃくちゃいいアイテム!
「あっ、そうだ。じゃあ、もしかして?」
カウンターは自動行動だ。ニートで遊んでる最中でも効果があるかも?
「ロラン。これ、君にあげるから。ずっと持ってて」
「くれるの? ありがとう」
水守のお守りは二つあるからね。片方を蘭さんに手渡す。
蘭さんが受けとった瞬間だ。
「あッ、体が勝手に!」
蘭さんのムチが宙に舞った。
スパンッ!
チャラララッチャチャ〜!
グレートマッドドクターを倒した。ガーゴイルA、Bを倒した。
あっ、勝った。