第164話 山びこの贈り物

文字数 1,504文字



 僕らのメンバーで傷を負ってたのは僕だけだ。ということは、僕の放った魔法は誰にも効果なく、虚しく響きわたる。

「は、恥ずかしい! 僕、何やってんの? 行動数減ったかな? あれ? でもMP、5しか減ってないぞ? 元気いっぱいなら8だよね?」
「あはは。かーくん、ドンマイ」

 ドンマイじゃないよ。
 これだけ大観衆の前で、僕は愚かな行動をしてしまった。ほら、みんな、ザワザワしてる。バカ丸出しー!

「もしかして、今ので僕の行動順に移っちゃったかな?」
「兄ちゃん。おれ、まだ動ける」と、アジが主張する。
「えっ? そうなの?」

 じつは前の試合のとき、あまりにも無防備なカッコでアジを戦わせちゃったもんだから、おわびもかねて、この前、ギルドの銀行にアジの名義で一億円貯金した。
 つまり、アジも今は流星の腕輪を装備している。素早さが二倍になってるから、行動数も多いわけだ。

 それにしても、僕が行動しちゃったのに、まだ動けるのはおかしいな。

「かーくん。山びこだよな?」
「うん」
「山びこの特技は自分が唱えた魔法が少ないMPで復唱されるんだけど。アジ、試しに自分に『もっとかたくなれ〜』かけてみな」

 猛に言われて、アジは「もっとかたくなれ〜」と叫んだ。
 すると、僕の体が勝手に動く。

「もっとかたくなれ〜」

 やっぱり、くりかえした。

「これ、パーティーメンバーが魔法使ったら、自動で復唱するんじゃない? しかも、どんな魔法でもMP5しか使わないよ」
「かもな。かーくん。素早さあがったか?」
「流星の腕輪してないから、前ほどじゃないけど、この感じなら七、八回は動ける」
「じゃあ、魔法で攻撃してみ」
「魔法か」

 たしかに魔法なら、アップルさんの弓矢の反撃をくらわなくてすむかも。

「じゃあ、燃えろ〜」

 鉄壁って守り、魔法でもちゃんと反応するんだな。小さな火の粉がブルーベリーさんの前に到達する前に、ビーツさんがとびだしてきた。ふん、こんなものって顔してるけどね。

「ミミミ〜」

 当然、ミニコが僕のマネをする。
 次の瞬間、ドカンッとデッカイ炎のかたまりが、ビーツさんを襲った。

 あ、あれ? また勝手に体が動くぞ?

「燃えろ〜」
「ミミミ〜」

 ぽやっのあと、ドカン。
 今度こそ、ブルーベリーさんが倒れる。

 すると、またまた、体が勝手に——

「燃えろ〜」
「ミミミ〜」

 ぽやん。ドカン。
 ウォーターメロンさんが倒れた。

 もうどっなってるのかな? 僕? また勝手に。

「燃えろ〜」
「ミミミ〜」

 ぽやん。ドカン。
 おおっ、スゴイ。大魔法使いのラフランスさんも一撃で。

「燃えろ〜」
「ミミミ〜」

 ぽやん。ドカン。
 アップルさんも倒れた。

「ビーツパーティー全滅です。かーくんパーティーの勝利!」

 勝手に勝っちゃったよ。
 なんだ、これ。

「……兄ちゃん。何が起こったんだと思う?」

 猛は爆笑する。

「一種のバグなんだろうな。ほら、見ろよ。山びこの就労中だけの職業特性」

 はいはい。なんでしょう?

「味方が唱えた魔法をくりかえす。使用MPは一律5。行動数は消費しない、って書いてある」

 あるね。

「あと、就労することでおぼえる特技に『自分の唱えた魔法が自動でくりかえされる。復唱ぶんのMPは消費されない』ってのもあるだろ?」
「うん」
「かーくんはミニコつれてるからさ。自分の唱えた魔法をくりかえす作用と、仲間のミニコが唱える魔法を復唱しようとする作用が重なって、結果、敵が全滅するまで

が止まらない——ってことなんじゃないか?」

 あはは。なんじゃそりゃ。
 めっちゃ嬉しいバグなんだけど。
 敵が全滅するまで行動し続ける特技。そんなの……チートすぎるじゃないか。
 神様、ほんとに大丈夫なの?
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