第284話 あがる火の手

文字数 1,504文字



 ちょうどそのときだ。
 話しあう僕らの前で、遠くに黒煙が立ちのぼった。

「ワレスさん。あの煙、火事じゃないですか?」
「そうだな。あの方角はオーク城あたりだ」

 話してるる途中で、ワレスさんの目つきがするどくなった。

「ゴドバがいる。アイツ、オーク城を襲ってるぞ」
「えっ?」
「ブタを……食ってる」
「ええーッ!」

 そ、そんな。オークたちは魔王軍なのに。ゴドバにとっても右腕だったグレート研究所長の城だ。それを襲って、よりによって、く……食ってる?

 司書長が細い眉をひそめる。
「おそらく、禁断の魔法にかけられて、ゴドバは理性を失っています。本能のままに暴走しているのでしょう。巨大化にともない、膨大なエネルギーを消費したので、空腹なのです。ノーム村にやってきたのも、おそらくはそのため……」

 むーん。ゴドバのヤツ、ノームを食べるつもりで狙ってきたのか。けど、ぽよちゃんたちが守ってて、それができなかった。だから、容易に襲撃できるオーク城へ移動した。

「オーク城が襲われてる……」

 グレート研究所長が生涯をかけて守ろうとしたオーク族。

 お城のなかを通ったときに話したけど、オークたちのほとんどは悪い魔物じゃなかった。食べてるときは荒っぽくなってしまうけど、ふだんはけっこう親切だったよ。

 僕にオマケのサービスしてくれた店屋のおばさん。ぽよぽよの平原を奪ってトウモロコシ畑にするのは賛成できないって言ってたおじさん。走りまわる子ブタたち。

 ほかの魔物に迫害されるから、魔王の軍門にくだったんだ。それもグレート研究所長や一部のオーク貴族の決定に従ったんだろう。
 魔王軍でさえなければ、オークとも話しあえる気がする。

「僕、ほっとけない。ブタさんたちを助けに行く」

 猛はあきれたみたいだ。

「おいおい、かーくん。本気か? だって、相手は魔王軍だぞ?」
「そうだけど、店屋のおばさんが食べられたらショックだよ。助けに行く」

 ちょっと考えてから、ワレスさんはうなずいた。

「わかった。じゃあ、おまえたちがゴドバを足止めしてくれ。ロランはおれが探しに行く。そのほうが早い」

 ワレスさんのミラーアイズで透視したほうが、早く見つけられるだろうね。

「そうだな。足止めはつまみ食いを使える、おれたちのほうがむいてる」と、猛も言う。
「じゃあ、行こう」

 ノーム村の守りには司書長たちがついてくれることになった。これで、ぽよちゃんたちは僕らと合流できる。
 ワレスさんは一人で古城へひきかえしていった。
 僕らはそれを見送って、オーク城へ出発だ。

「私も行きます。もう体力も戻ってきました」

 ふえ子のお母さんもそう言ってついてくる。ふえ子はお母さんと再会できて、よかったね。クピピコだけワレスさんと行ってしまったけど、ふえ子とほかのコビット族は、僕らの隊に戻ってきた。

「じゃあ、トラっち。たのむよ。オーク城まで、なる早で!」
「ニャッ!」

 オーク城から黒い煙が湧いてる。火の粉が空に舞いあがっていた。

 どうか、まだ、みんな無事ですように。お店のおばさん。廊下で遊んでた子どもたち。食堂でケンカした食いしん坊のオークたち。

 僕たちは猫車に乗って、ひたすら平原を走っていった。

 やがて、森の端に来ると、見えた。ゴドバだ。城の上に体をかぶせて、なかへ顔をつっこんでる。ワレスさんに切断された首は、もうひっついてるみたいだ。あの体勢だから、遠くからは見えなかったのか。

「みんな、行くよ!」
「しょうがないな。可愛い弟のためだ」
「行ったるでェー」
「キュイ!」
「行きましょう。いくら魔物でも、食われるのは哀れです」

 僕らはオーク城へ突進していった。



 第六部『謎の大陸をめざせ!』完
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