第12話 列車強盗のボスは?
文字数 1,353文字
すると、戦意喪失した少年は一目散に機関車へ走っていった。機関車から残る一人の男が、あわてて出てくる。
「なんや、おまえら。やられたんかいな」
ん? この声。それに、大阪弁?
僕はボスらしきその男をじっと見なおす。マントと覆面で顔を隠してるんだけど、身長と言い、ふんいきと言い、なんかこう……。
「……シャケ?」
ボスは初めて僕らを見たようだ。ハッとしたようすになり、少年の手をつかむ。
「行くで」
転移魔法アイテムの『旅人のお守り』を使ったらしい。ボスと少年の姿はかききえた。
「今の……シャケじゃなかった?」
「似てましたね」
「なんで、シャケが列車強盗を?」
列車は次の街で緊急停車した。気絶した盗賊たちは、兵隊さんに引き渡された。
だけど、僕らの気持ちはおだやかじゃない。
シャケは僕らの仲間だ。いや、つい最近まで仲間だった。でも、悪のヤドリギ討伐の最中に、僕の金貨を大量に盗んでいなくなってしまった。
討伐がすんでから、いろいろ調査してもらったけど、やっぱり結果は、シャケが犯人だっていう非情な現実。
何しろ、過去視のできるワレスさんが見て確認してくれたんだから間違いない。
僕らはギルドの預かり所に、遠方から物品を出し入れできる預かりボックスを持ってるんだけど、それを使って勝手に出し入れしたのはシャケだった。
あのとき僕はひろった五百億円と、これまたひろった二千五百億円の入った財布を預かりボックスに入れといた。あわせて三千億円をとられてるんだ。
いや、お金はいいんだよ。ちょっとダンジョンやワールドマップを歩けば、数十歩ごとに十億円ひろうからさ。一日行軍したら、あっというまに三千億なんか貯まる。
でもね。悔しいのは、僕のお財布だ。招き猫のマスコットがぬいつけられたガマグチ。僕がこの世界に来て最初にあけた宝箱から出てきた、このミャーコポシェットとセットの財布だ。あれ以外は僕のお財布じゃない! 僕の財布愛なめるな!
あのお財布がなくなってから、なんとなくミャーコポシェットも元気がないし。僕がひろう大量のお金を以前は自ら吸いこんでくれたのに、最近はイヤそうな顔をするんだよね。やっぱり、お金の管理はあの招き猫がしてくれてたんだと思う。
三千億はもういいから、とにかくお財布だけでも返してほしい。
まあ、そんなわけで、シャケは僕らのパーティーを離脱した。
でも、変なんだよなぁ。シャケは現実世界でも僕の友達だ。本名は
できることなら、ちゃんと事情を話して僕らのもとへ帰ってきてほしい。僕はそう思ってるんだけど。
「シャケ。どうしちゃったんでしょうね」と言う蘭さんの顔も暗い。
「シャケが仲間のお金を盗んだり、列車強盗をするとは思えないんです。もし、そうしなければならないとしたら、そうとうの理由があるはず」
そう。そこなんだよね。
こっちの世界での三村くんは、たくさんの弟妹をかかえた大所帯だ。商売人になったのも家族を養うためだと言ってたし、もしかしたら、ものすごく困った事態になってるんじゃないだろうか?
僕はそれを心配する。
わけがあるなら相談してくれたらよかったのに。
僕ら、友達なんだからさ。