第313話 やっぱり僕って……

文字数 1,193文字


「アニキー!」
「ギャー! 襲われるー!」

 いきなりケンカしかけてくるなんて、気の荒いぽよぽよだ。ここは逃げなくちゃ。何しろ、人間サイズのぽよぽよだ。タックルされたら、僕でもけっこうダメージを負ってしまう。

 でも、今の僕って、うまく走れないんだよな。ていうかさ。も、もしかして……僕って、さっきから

ない?

 やっぱり、そうだ。二本足じゃない。両手と両足で走ってる。両手っていうか……毛だらけの前足っぽいもので。

 僕はぼうぜんとしながら、自分の体を見おろした。赤いパーカー着てるけど、なんとなく体つきがおかしい。やな予感。

「アニキ!」

 すると、さっきのぽよぽよが追いついてきた。僕の顔に自分の顔をこすりつけてくる。うへっ。これはかなりディープな親近感の表現?

「アニキ。無事だったんすね? 探してたんすよぉー。心配したっす!」
「えっ? 誰?」
「やだなぁ。アニキ。冗談はナシっすよ? おれですよ。おれ!」

 僕は頭上でゆれる、ぽよぽよの耳に気づいた。片方に黒いハート模様がある。

「……もしかして、なんだけど」
「はい?」
「ぽよちゃん?」
「そうっす! ぽよです。アニキの手下のぽよですよぉ!」

 ぽよちゃんが……ぽよちゃんが、ヤンキー……。
 それにサイズが大きすぎない? 僕と身長が同じなんだけど?

「アニキ? どうしたんすか? ほら、早く、みんなを探しに行きましょうぜ!」
「いや、あのさ。ちょっと待って。ぽよちゃん、大きくなったよね?」
「ぽよは、いつもどおりっすよ? アニキが小さくなったんす」
「えッ?」

 イヤな予感が重く両肩にのしかかる。

 僕は急いで周囲を見まわした。

 鏡は? どっかに鏡ないの?

 鏡はなかったけど、酒場の入口近くに窓ガラスがはまってる。なかから明かりに照らされて、客の姿が映りこんでた。

 あれだ。急いで、僕はその前に立った。背が届かないんで、テーブルの上に、ピョンととびあがる。やっと見ることができた。

「おっ、なんだ、こいつ。しゃれた服着てるなぁ」
「誰かに飼われてるんじゃないか?」
「ご主人と離れてると危ないぞ。なかには竜人やガーゴイルもいるからな。ヤツらはおまえみたいなちっこいのを見たら、一口でパクリだ」

 テーブルの客がそんなふうに言う声も、僕の耳には入らない。上の空。だって、だって……。

 なんとなく、そうかなぁって思ってはいたよ? いたけど……やっぱり、やっぱり、そうか!

 ガラスに映るその姿。
 ああっ! これが僕? なんで? 僕、なんかした?

 僕は



 赤いパーカー着て、ミャーコ形のリュックを背負った、超可愛いぽよぽよね。白ぽよぽよなんだけど、ちょっとクルンとした前髪があって、そこだけ、うっすらピンク。うしろ足にブーツをはいてる。風神のブーツか。

「ぼ……僕が、ぽよぽよにィー!」

 僕は目をまわして、その場に倒れた。意識が遠のいていく……。
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