第76話 変な水神

文字数 1,916文字



 地の底を歩いていくと、洞穴のなかなのに、なぜか一軒の家があった。かなり小さめだけど、鉄筋コンクリ建ての病院とか、研究所とか、そんなものに見える。

「地底で見るものじゃないよね」
「かーくん。その建物のなかから、強いボスの気配がします」

 いよいよ、ダンジョン本番だな。外見だと一室くらいしかなさそうなサイズ感なんだけど、ダンジョンは見ためどおりじゃないからね。
 入ってすぐボス戦なのか、それとも、こう見えて、さきはまだ長いのか。

「行くよ? いい?」
「あっ、かーくん。もしも、なかが清潔そうなら、僕も外に出ますから」
「うん。わかった」

 さて、行くぞぉ。
 僕は気をひきしめて、ドアノブに手をかける。
 このなかに、いったい何が待ってるのか!

 が——

「…………」

 ガチャガチャガチャ。
 ムダにまわるドアノブ。
 音を立てて抵抗する。
 カギ、かかってるね。

「入れない」
「えっ? そんなダンジョンあります? こういうときって、宝箱にカギとか入ってません?」
「でも、ここまでに宝箱は一個もなかったよね」

 馬車のなかから、ホムラ先生が顔を出す。なんと、ふえ子をモフモフしてる。ズルイ! 僕らに戦わせといて。

「建物のよこに(ほこら)があるではないか」
「ほこら?」

 あっ、ほんとだ。
 岩壁に格子の扉がついてる。扉の上には屋根を表してるんだろうな。八の字形に木の飾りがついてる。しまね〇こが頭につけてるみたいなやつ。
 えーと、ちぎ? そうそう。千木とか言ったかな。物知りかーくん。

「なんでこんなとこに祠があるんでしょう」
「あけてみてはどうだね?」
「えッ? そんなの神様に不敬じゃないですか!」
「ハッハッハッハッハ。では、私があけてやろう」

 いや、まあ、うん。そうだな。先生なら祟られなさそうだ。

「お願いします」

 先生はふえ子を片手でかかえながら、馬車から出てきた。なんでか、すっかり仲よくなってるな。

「案外、こういうところにカギが隠されてるもんだよ。ポストだね。人間はみんなポストにカギを隠すじゃないか?」

 いや、みんなじゃないですから。

 ホムラ先生は笑いながら、祠の扉に手をかける。
 そのとたん、バチンと変な音がして、先生とふえ子は飛んだ。飛ばされたっていうほうが正しいかな。五メートルは浮いたね。

「こぉーらーッ! 異国の神がいい気になりおって。わしの祠に手をかけるでない!」

 扉の格子のあいだから、ビヨーンとゴムのようなものが伸びてきた。よく見ると、水色のケムリみたいなものだ。ケムリがモクモク渦巻きながら、竜の形になってる。

「ホムラ先生。大丈夫ですか? ふえ子? ふえ子、目まわしちゃってるよ」
「何、私は大事ない。ハッハッハ。まさか、こんな悪臭のただよう汚部屋(ほこら)に水神が住まっているとは思わないではないか? ハッハッハッハッハ」
「ぬうっ、誰が悪臭で汚部屋じゃ! 無礼なり! 異国の神よ。我と争うがよきか?」

 ああ、もう。めんどくさいな。

「すいません! ケンカはあとでしてください。僕たち、急いでダンジョン攻略して、スラム街の人やさらわれた子どもたちを助けないといけないんで。あなたはここの水神さまなんですね?」
「なあっー! きさま、人間のぶんざいで、なんという口のききようじゃー!」
「…………」

 僕は祠の前に立って、一礼。そして柏手を二回。全国のほとんどの神様は柏手二回だ。鈴はないんで省略して、格子のすきまから一億円金貨を一枚さしこんだ。お賽銭(さいせん)箱が設置されてないからさ。

「どうか、僕らがこのダンジョンをぶじに攻略して、困ってるスラム街の人たちが助かりますように」

 もう一枚、金貨をさしこんだ。

「さらわれた子どもたちを全員、助けることができますように」

 で、最後に一礼ね。
 もう目に見えて水神さまの顔がゆるんだ。拝まれることが大好きらしい。金の力だとは思いたくない。

「おお、おお。わしの信者か。ならば最初から、そう言わんかい。そちの願い叶えてやりたいものじゃがのう。じつはこの地下水が何者かによって、けがされてしまってのう。わしの神通力も枯れかけておるのじゃ。しかし、この奥にある湧水の源泉から、清水をくんできてくれさえすれば、力になってやることもできようぞ」
「清水、ですか。わかりました」

 たしかに祠とコンクリ建てのあいだに細い道が奥へと続いている。でも、距離はさほどない。ほんの数メートル。

「じゃあ、僕、くんできます」

 僕は装飾品のミニコだけつれて、奥へ歩いていった。
 なるほど。地面からポコポコと水の湧きでる小さな泉があった。

 だけどね。いるんだよ。


 チャラララ……。
 水守が現れた!


 うっ、なんか巨大なオオサンショウウオっぽいものが、僕の行手をふさいでる。
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