第259話 出発の朝

文字数 1,818文字


 翌朝。

「母ちゃん、行ってくるよ!」
「クピコピ、ピラー」
「えっと……母ちゃんが何言ってるかわかんないけど、ノームの人たちは必ず助けだすからね」
「ピコッピコ、ピラピラー!」
「ご、ごめん。母ちゃん……」

 ははは。ナッツが戸惑うのもしかたないよね。体のサイズが違うと、コビットの言葉はわからなくなるから。でも、なんとなく行ってらっしゃいと言ってる気がする。

 僕らはそれぞれの馬車に乗って移動する。猫車の乗車人数も二人増えたし、快適な旅だ。

 たしか前のとき、二時間くらい地下道を歩いて、そこから森に出た。今回も同じ道をたどることになるのかな。

 ところがだ。
 以前の地下道の出入口に来ると、そこは大きな鉄の扉でふさがれていた。前にはこんな扉なかったのに。

「村長さんが言ってた。前にここから囚人が逃げたから、古城の魔物たちが出口をふさいでしまったんだって」と、ナッツが説明する。

ワレスさんが腕を組む。
「困ったな。では、どこから出入りするか?」

「おれは羽があるからな。一人でも飛んでいける」って、猛が言うんだけど、
「ヤダ! 兄ちゃん、行ったら帰ってこないじゃん。一人でゴドバ倒して、まんま、どっか行ったりしないよね?」「うーん……しないとは言えないな」

 なんで、そこでニカッと笑うのか?

 ナッツが言った。
「ノームだけが使う秘密の地下鉱脈があるよ。そこからお城の地下道に入っていけると思う」

 そう言えば、最初に村長さんと出会ったときも鉱物の採取に来てたっけ。

「じゃあ、そこに案内してよ」
「いいけど、魔物が出るよ。だから、精霊以外は近づけないんだ」

 精霊族は『逃げる』が得意だからね。精霊、精霊騎士をマスターしたら、どんな相手からでも百パーセント逃亡できる。

「鉱脈の奥に鉱物マスターっていう聖獣がいるんだって。すごく強いから近づいちゃいけないって言われてた」
「心配ないよ。こっちには強いメンバーがそろってるから」
「鉱物マスターを倒すと、もうその鉱脈からは宝石がとれなくなるんだよ。鉱脈の神様だから。倒しちゃいけないんだよ?」
「えっ?」

 それは……難しいな。

 ワレスさんが断言する。
「とにかく、行くしかない」
「まあ、そうですね」

 というわけで、ノームたちの使う採掘用の坑道に入っていく。山肌に小さな穴があいていて、とうぜん、軍用馬車なんて入らない。
 それを見て、ワレスさんは言った。

「ここで二手にわかれよう。おれたちはさっきの扉を破壊していく。古城の連中に知れ渡れば、敵をおれたちにひきつけることになる。正面突破だな。そのあいだに、おまえたちで誘拐された人たちを救出するんだ」
「わかりました」

 ここでワレスさんたちとは別行動か。しかたない。目の保養が去っていく。でも、キヨミンさんをつれてってくれるのは、ありがたい。正直、朝からキャーキャーうるさくて。

 さて、小型の僕らの馬車はなんとかノームの坑道に入っていくことができた。
 いつでも目的にそって別れることができるように、それぞれ馬車と猫車に乗りこんでる。

「ここのお金ってひろっていいのかな? ちょっと迷うよね。ノームの人たちのものかな?」
「さあ。兄ちゃん。金ひろわないから」
「へへへ。羨ましいでしょ。この前さ、小銭ひろいのランクが3にあがって、ついに両手をたたくだけで金銀財宝が出てくるようになったんだよ」
「なんだ、それ! 兄ちゃんにくれ」
「いいけどさ。ほら」

 僕がパンと両手を打つと、そのあいだから、ザラザラと金貨や宝石のかたまりや黄金の彫像とかがこぼれおちてくる。もう、ひろうとかじゃない。自分でも怖いよ。これが現実でできたら、一生、世界中を豪遊して暮らせるんだけどなぁ。

「かーくんたち、そんなことやってる場合じゃないよ。モンスターが出るんだからね」

 ナッツに注意されてしまった。それにしても、アジが静かだなぁ。ナッツと同い年くらいなんだから、友達になってくれたらいいのに。

 薄暗い坑道。ところどころにカンテラがかけてある。
 金の鉱脈なのか、岩壁にところどころ光るものがある。ピカピカしてキレイな洞くつだ。両脇には水晶の結晶が大きく育ってる。

「ここから廃墟の古城へ行くには、どっちへ行けばいいのかな?」
「みんな、このなかでノーム狩りにやられたんだよ。だから、どっかでつながってるのはたしかなんだ」
「そっか。じゃあ、わりと近いのかも」

 なんて話してたときだ。
 道が二手にわかれた。
 上と下にむかってる。
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