第207話 来ました。名人墓場

文字数 1,631文字



 名人墓場。
 いや、まずはそこにつながる洞くつか。洞くつだけで、こんなに不気味なの? これまでに制覇した、いくつかの洞くつと、えらくふんいきが違う。

「真っ暗……」
「かーくん。カンテラ持ってましたよね? 貸してください」
「はい。ロラン」

 カンテラを出すと、かすかな光がユラユラとあたりを照らす。やだな。このなかに入るの……。

「はぁ。ぽよちゃん。僕たち、なかでよかったねぇ。前衛はみんなに任せよう」
「キュイ……」

 あれ? ぽよちゃんもオバケ苦手なのか。ふるえてる。
 可愛いなぁ。
 あっ、そうだ! こういうときこそ、ネコカフェの気分を味わおう。

「ちょっと待って、ロラン。僕、猫車に乗るよ。猫たちと遊んでるからさ」
「わかりました」

 ぽよちゃんをダッコしたまま馬車をおりる。うしろの猫車へと歩いていった。猫車には今、ネコりん四匹しか乗ってない。アジとラフランスさんはNPCだから、馬車の人数に数えられないのだ。だから、向こうに人間全員とモンスターたちが乗りこめる。

「おーい。ネコり〜ん。トイちゃん、ラブちゃん、タイガにシア〜」
「ミ〜」
「ミ〜」
「ミ〜」
「ミ〜」
「ミ〜」

 ん? 今、一匹多かった?
 猫は四匹。返事は五匹……な、なんで? ホラーなの? まさかホラー? オバケ退散! って……なんだ。ミニコか! ま、まぎらわしい。

「わ〜い。みんな、モフモフだねぇ。可愛いよぉ」
「ミーミー」
「ミーミー」
「お腹減ってるの? おやつあげようねぇ。チュール、チュール、猫にチュール〜」

 猫とたわむれてると、暗闇も気にならない。なぜか、ポシェットのミャーコもバタバタする。ネコりんたちと遊びたいんだろうか?

 僕は夢中になりすぎてた。
 いつのまにか、ガラガラという馬車の車輪の音が聞こえなくなってることに気づいてなかった。

「あ、あれ? なんで?」

 外をのぞくと、前に馬車がいない!

「ああーッ! 置いてかれた?」

 こ、こんな真っ暗な洞くつのまんなかで?
 見ると、トラっちがギラギラした目でチュールをながめてる。そうか……トラっちも欲しかったんだ。

「ご、ごめん。はい。トラっちもチュールね」
「ニャッ」

 トラっちの巨体には、いささか小さなオヤツだったかもしれないが、食べおわると、なんとかまた走りだしてくれた。でも、馬車がいっこうに見えない。完全に、はぐれた。

 で、そんなときにかぎって、
 チャララララ……。

 あっ、戦闘音楽だ。
 誰が戦うの? 僕? もしかして、僕?


 野生の動く死体が現れた!
 野生のさまよえる魂が現れた!
 野生の市松人形が現れた!


 ギャーッ! 怖いヤツばっかー!

「オバケ出たー! オバケー! オバケー! ぽよちゃん、どうしよう?」
「キュイー!」

 どうしようと言っても、ここには僕とぽよちゃんとネコたちしかいない。

 た、戦わないといけないのか? 僕が? この僕が?

 逃げてもいいけど、失敗して万一、全滅したら、所持金が半額に……。

「しょ、しょうがない。最近、一回で二千億円ひろうからね。今日なんか、すでに十兆持ってる。五兆円とられるのは悔しいもんね」

 オバケより小銭への愛が勝ったかーくん。
 怖々、猫車の外に出る。

「いくよ。ぽよちゃん! ミニコ!」
「キュイ!」
「ミー!」

 バーサーカー二人のパーティー。プチバーサーカー祭りだ。ネコりんたちは僕らにやられると危険なので、猫車のなかで待機させる。

「じゃあ、ぽよちゃん。聞き耳!」
「キュイ!」

 動く死体はレベル5だ。前よりちょっと強くなった。行動パターンは前と同じ。やっぱり、のっとるって技がやっかい。

 市松人形は別荘で戦った。
 さまよえる魂ってやつが、初めてだな。ぼんやりした火の玉だ。正直、たまりんとの違いがわからない。

「えーと、さまよえる魂の特技は……取り憑く、呪う、泣きわめく! みんな怖い!」

 はぁ……ほんとに勝てるんだろうか?

 がんばれ、かーくん。
 お、オバケだって昔は生きてたんだ。ちょっと状態が死亡になっちゃってるだけさ!
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