第10話 トレインジャック戦2
文字数 1,502文字
蘭さんは王子で勇者さまなのに、武器は剣じゃない。ムチだ。ムチが好きな王子様!
それも、ただのムチじゃないもんね。王都のカジノでメダル三十万枚と交換した非売品。お金に換算したら六千万円だ。現実の世界でも家一軒相当の額だが、こっちは物価が低いから、価値で言えば、さらにその数倍。三億円で買いました、くらいの感覚。僕がプレゼントしてあげたんだけどさ。へへへ。三億円くらいチョロい、チョロい。
当然、ふつうに手に入るムチのなかでは世界最強。
しかも、蘭さんは素早い上に、素早さ数値を二倍にしてくれる流星の腕輪を装備してる。てか、流星の腕輪は、うちのメンバー全員してるんだけど。
「えーと、武闘家は倒れちゃったし、誰を狙おうかな」
「とりあえず攻撃力の高い戦士じゃない?」
「そうですね。行きます」
華麗な蘭さんのステップ。
クィーンドラゴンのムチが舞う。
ビシッ、ビシッ、ビシッ!
三連続攻撃だ。
これがこの世界の不思議なとこだよねぇ。敵との素早さ数値に大きくひらきがあると、ターン内何回でも行動できてしまう。
戦士のおじさん、目をまわした。
残るは盗賊と大盗賊か。
行動したあと仲間に順番をゆずっちゃったから、僕はもう動けない。自分の番が終わると待機行動以外はできなくなるんだよね。
「ぽよちゃんとアンドーくんで一人ずつ行けるかなぁ?」
「攻撃力の高いぽよちゃんに上級職の大盗賊をやってもらいましょうか」
作戦を立てるのは蘭さんと僕だ。アンドーくんとぽよちゃんはうなずいた。
「じゃあ、ぽよちゃんのあと、大盗賊が残ったら、わがトドメさすわ」
「うん。そうしてくれますか?」
というわけで、次はぽよちゃんの攻撃。
この時点で残る盗賊大盗賊は、みるみる血の気が失せてたんだけど、たぶん逃げようとしてるのかな? グンとひっぱられるような感覚があった。僕と蘭さんで退路をふさぐ。『逃げる』が失敗したんだと思う。
「逃げようとしたね?」
「しましたね」
「うわー。こいつら、バケモノだ!」
あわてふためく盗賊に対して、大盗賊は自分が狙われてるってのに、まだ落ちついてる。
「みっともねぇぞ。見ろよ。残る人間は一人だ。ぽよぽよなんか戦力じゃねぇよ。スライムに毛の生えたようなヤツなんだからな」
「ギュウ……」
むっ。ぽよちゃん、怒ったよ? 僕だって怒るよ? うちのぽよちゃんはね——
ぽよちゃん、走ったー!
「キュイ!」
なんとなくだけど、「成敗!」と言った気がする。
「うぎゃー!」
大盗賊、ぽよちゃんの三連撃をくらって大きくよろめいた。これで行けるでしょ?
あれ? あれ? 白目むきながら立ってる?
「かーくん。さっき、聞き耳で見たとき、大盗賊の職業スキルに、ふんばるって言うのがありましたよ?」
蘭さんに言われて、ハッとした。たしかに、あったかも?
蘭さんは続ける。
「ふんばるは一部の上級職で使えるようになる技です。HP以上のダメージを受けても、戦闘不能を回避するんです」
「ああ。武闘家と戦士でなれる武人でもおぼえる技だね」
一人につき一人ずつ倒していきたかったけど、しかたない。
「アンドーくん。よろしく」
「うん」
アンドーくんはシルバーナイフを片手に白目むいたままの大盗賊に走っていく。と言っても、ナイフのさきでチョンとよろいを叩くと、トドメが発動した。HPの残りが少ないほど発動率が高くなる技だ。必ず相手を戦闘不能にする。大盗賊も倒れた。
はいはい。残りは一人ね。
まあ、次は敵方のターンだけど、かこんでるから逃亡もできないし……。
と思ってたら、やりやがった。
「あ、アニキー! 助けてくれぇー!」
ああ、仲間呼びかぁ。
盗賊も使うんだぁ。